得意ジャンルを持つべきか? ジャンル別、参考にしたい過去の得点実作13
第5期生から「この講座でこういうジャンルは書いていいですか」という質問が多かったので、過去の得点された実作をジャンル別にまとめる。別にこのジャンルをまねろ、というわけではなく、「これがいけるならこのジャンルもいけるのでは?」と、自分の得意な作風を生かしてほしい。SF講座だからといって、今まで読んできた他ジャンルの小説、書いてきた得意技を捨てる必要はない。むしろ生かしたほうが評価されるだろう。
過去の記事
得意ジャンルを決めるメリット
① ネタが早く作れる。この講座は基本的に忙しいので、題材に迷っている時間があまりない。たとえばAIを主ジャンルにするなら、つぎは「AI × 仮想通貨」でいこうとか、「AI × 仮想世界」でいこうとか、組み合わせながら使えるし、設定を使いまわしたりできる。
② 繰り返すと精度が高くなる。いろんなジャンルに挑戦することも良いが、色々つまみぐいばかりしていると、経験がなく精度が落ちる。ある程度、そのジャンルの過去作品にも精通しないといけないし、知識がないと毎回勉強する必要がある。
デメリット:飽きられる可能性はあるので、毎回工夫は凝らすこと。もちろん、色々なものを試すことはいいし、自分が得意じゃないと思っていても、書いてみたら意外とウケた、ということもある。
・ジャンルの組み合わせ方
SFのサブジャンルで決めるなら、スペースオペラ、バイオSF,歴史改変、人工知能など。SF以外の、ギャグ、ミステリ、恋愛もの、歴史、ファンタジー、これらをかけ合わせても良い。ギャグなら梗概で3、4回笑わせるくらいの勢いで、「せつなさ」を書くのが得意なら、梗概を読んで少し泣かせるくらいの勢いで良いだろう。恋愛小説が得意なら梗概を読んで2回キュン死するくらい。
★ 基本的にここで紹介しているのは、すべて講座で加点・評価された実作である。また自分の好みもあってか、全体的にライトな作品が集まった。(ほかには歴史もの、外国もの、ライトノベル風などがある。参考作はあるので直接聞いてほしい)。 同じ作者は似ているジャンルを書くことが多いので、気に入った作者の他作品も参考にすると良い。
また自分のジャンル知識はかなり微妙なので、ジャンル判定にはわりと自信がない。こういう作品も評価されるんだなぁ、くらいに思ってほしい。
- 得意ジャンルを決めるメリット
- たくさん笑って少し泣ける、SFコメディ
- トリックは科学? SFミステリ
- 現代? 近未来? かぎりなく現実に近い技術
- 異世界、妖怪、ファンタジー!
- 子どもが主人公、ジュブナイルSF
- 原作を超えろ、思いっきりパロディ
- 誰かに刺さる、誰かのための小説
- 参考図書
たくさん笑って少し泣ける、SFコメディ
笑わせてなんぼであるが、個人的には少し泣けたり、深い設定やストーリーがあると満足感が増す。最終的にはSF設定をどんどん練りこんだり、思いもよらない展開まで行った方が評価されるかもしれない。
★ 『10文字以内で述べなさい。(ただし、句読点は含みません)』
進藤尚典(第3期 第4回「拘束下で書きなさい」)
「10文字しか話せない」というおかしな惑星を修学旅行中、恵は真美に愛の告白を決意する。すごく話しづらいなか、法律が変わり、とうとう5文字しか話せなくなってしまい……。セリフだけでなく、地の文まで制約に従っている百合コメディ。
★『AI、無人島を脱出できず』 進藤尚典
(第3期 第1回「AIあるいは仮想通貨を題材に書け」)
天才プログラマーにつくられたAIのポゾ。ニューヨークへと旅立った製作者を追いかけるため、ポゾは無人島の研究所からの脱出を目指す。ポゾはお金を稼ぐためにバーチャルユーチューバー『ポゾ子』になり……。
トリックは科学? SFミステリ
ミステリであれば、梗概の時点で、「なるほど」「謎が解けてすっきりした」くらいの印象があるほうがよい。
(第四期 第5回「シーンの切れ目に仕掛けのあるSF」)
近未来、太陽系内で作業員たちの死亡事故が次々と発生する。共通点は、死亡とほぼ同時刻に、遠く離れた火星で被害者たちの持ち物が破裂したこと。これらは単なる偶然なのか?
(第四期 第2回「読んでいて“あつい”と感じるお話」
半日前に殺された巻上マリは、気がつくと自分が幽霊になっていた。同じ幽霊である『先生』が言うには、幽霊は人間に触れることで熱を奪うことができるという。マリは自分を殺したと思われる男に復讐しようとするが……。
現代? 近未来? かぎりなく現実に近い技術
職業もの、お仕事ものなどが多い印象。しかし現代の技術なので、SF的な「ハッとする驚き・おもしろさ」を出すのはわりと大変で、技術がいりそう。
★ 『ギークに銃はいらない』 斧田 小夜
(第3期 第5回「来たるべき読者のための「初めてのSF」)
銃なんかなくたって、俺たちは世界を殺せる。俺たちは人工衛星を落とすことだってできるし、インターネットも簡単に殺せる。
高校生でいじめられっ子のディランと痩せっぽちのジェシーは、シリコンバレー近郊のベイエリアで、ギークにあこがれていた。ある日、ふたりはDynに対する大規模DDoS攻撃によって、インターネットが死ぬのを目撃する。彼らは自分たちで学校のネットワーク、監視カメラをジャックしようとするが……。
作者は第3回ゲンロンSF新人賞優秀賞受賞。ほかに『自己をめぐる嗣焼つぐやき梨子りこの奔走』『酔来酔去』など。
★『FLIX!!』 東京 ニトロ
(第4期 第3回 「強く正しいヒーロー、あるいはヒロインの物語」)
レンタルビデオ「フリックス」京成さくら店で、コギャルバイトの水上マミは驚愕した。高さ3m近くある赤いロボットが入店し、自分が浪人生バイトの灘くんだと名乗ったからだ。そこにあったVHSには、外銀河連合からのメッセージがあり、さくら市に来た感染型生命体を倒すために、灘くんをロボットにしたらしいが……。
作者は他に、同系統の『ら・ら・ら・インターネット』、パニックSF『渦を追う』など。
異世界、妖怪、ファンタジー!
SFとファンタジーはわりと親和性がある、らしい。なんでもありというのは良くないが、その現象、その設定に、「その世界で成り立っている理論、きちんとした設定」があればいいかもしれない。
(第4回ゲンロンSF新人賞 優秀賞)
亨志郎は病気の妹のために目の神社を訪れ、「めめ」と書かれた絵馬をみつける。そこで亨志郎は、不思議な少女「李」に旅館に案内される。迎えてくれたのは、目が4つある番頭、目がびっしりとならぶ障子、そして、「李」の腕には大量の目がついていた。
最終実作で申し訳ないが、こちらしかないのでご容赦を。作者の他の実作は、『蛇女の舌の熱さを』、『ぬっぺっぽうに愛をこめて』、『家庭内枕返し』『彼らが焦がれ描いた仙境』(いずれも非公開、得点実作)。どういうジャンルのものを書いてきたか、なんとなくわかるタイトル群。
(第3回ゲンロンSF新人賞受賞作(大賞))
その群れは、多数の女とたった一人の「父」から成っていた。「父」は女とちがい、全身を分厚い毛皮に覆い、頭上には枝角を冠のようにいただいていた。13歳の少女ハイラはあるとき、自分の群れの「父」ではない、若い男の姿を見る……。(amazonより)
最終実作で申し訳ないが。 ゲンロン創作講座の提出版は、『父たちの荒野』。ほか同作者の提出作は『ちいさな夜警』、『いとしき我が子』。
子どもが主人公、ジュブナイルSF
子ども向けのSF作品で、この講座の評価を得るのは大変だが、やってみても良いかもしれない。(子ども向けだとどうしても、「ハッとするSF設定」などが作りにくい)。また子どもを主人公にした場合、「社会を変える」など大きなオチをつけるのが難しいので、ドラえもんのようなすごいアイテムを持たせたり、事件を小さくしたり、工夫する必要がある。
(第四期 第9回「20世紀までに作られた絵画・美術作品」)
少女マヤは、砂浜がひろがる無人の惑星で、家族とともに幸せな生活を送っていた。母親のエル、父親のキース、弟のパウル。ある日マヤは宇宙船のライブラリで、この惑星の秘密を知る。
こちらは子どもが主人公だが、ジュブナイル、というわけでもない。子ども向けという意味では『いつの日か、空に。 ~ミッション・スペースキャンプ~』のほうかもしれない。作者のほかの作品には、地球のOLが「生物化している医療機器の子ども」を育てる『マイ・ディア・ラーバ』(非公開)などがある。
★『そら駆ける釣りケーキ』 進藤尚典
(第三期 第5回「来たるべき読者のための「初めてのSF」)
小学4年生のマサルは、ケーキ屋の息子であるヒサシとともに、ある日うら庭で宇宙船を見つける。そこを秘密基地として遊んでいるうちに、ふたりは宇宙船で異星に飛ばされてしまう。その惑星でとれる魚は、ケーキのように甘い味がして……。
子どものころの自由な想像がつまった作品。秘密基地にトイレがあるすばらしさ。
原作を超えろ、思いっきりパロディ
原作が有名である場合、パロディ商業作品も既存で山のようにあるので、それらを超えるのはなかなか大変である。どの作品に焦点を当てるかも重要。
(第三期 第4回「拘束下で書きなさい」)
「吾輩は鬼である。角はまだ無い。吾輩の主人は滅多に勉強しない。身分は女子高生だそうだ」
なぜか女子高生の間で、肩に鬼を乗せるのが流行っている世界。「『吾輩は猫である』の第一話全文を模倣して書くこと」を制約としたパロディ。くしゃみ先生がもし女子高生だったら? と思うと笑える。
(第四期 第7回「取材してお話を書こう」)
変わり者で嫌われ者のアンドウは、大学の展覧会で落語を披露することにした。しかしそれは、アンドロイドに故人の噺家を投影したもので、噺は「らくだ」だった。「らくだ」のあらすじは、嫌われ者だった男(らくだ)の死体を、皆がこぞっていじりあうというストーリーで……。
パロディではないが、実際の落語の話し方を踏襲している。
誰かに刺さる、誰かのための小説
ある特定の層(?)に刺さる作品。下記はアニメ雑誌とかに載っていそうな作品だが、とくに編集者ゲストの方は、「ターゲット読者層がはっきりしている作品」に弱い、という印象がある。どこに向けて売ればいいかわかりやすいというのがあるかもしれない。ハマっているものなどがあればそれを題材にすると良い。(なぜかアイドル系が多い気がするが……)。進藤尚典『推しの三原則』や、斧田小夜『自己をめぐる嗣焼つぐやき梨子りこの奔走』など。
(第四期 第5回「シーンの切れ目に仕掛けのあるSF」)
来本はある日、ダイビングを終えた後に、ケータイの待ち受け画像が変わっていることに気がつく。推しキャラの名前でググっても、検索結果はゼロ。実家の部屋からはフィギュアがすべて消えていた。来本はダイビングをすることで、推しのいない世界線に飛び込んでいた――。
ほか、同作者は、オフィーリアのあの絵画があるものに見えるという着想から来た『Plutonic? Plastic!』など。
参考図書
サムネ用
サムネ用