まほうのことば

小説の新人賞などに応募しています。本の話や創作の反省。黒田なぎさ

梗概の書き方_感想会でよく言うこと_参考にしたい選出梗概

 

・梗概メモ

 

 

なぜ梗概を書くのか

①「このストーリーで実作を書く予定なんですが、どうでしょうか」と人に見せる企画書のようなもの

② 当然、①の場合、たまにボツが生まれる。実作を書くまえに「おもしろくない」と判定されるとボツになる

③ 作者の頭のなかを整理するためのもの

④ 良い梗概とは、「実作を読んでみたい、書かせてみたい」と思わせるもの。その場合、梗概を読んで、少し「おもしろそう」とか「感動した」とか思わせないといけない。

 

参考になりそうな過去の選出梗概

先に参考になりそうな過去の選出梗概を挙げておく。とばしても良いが、最初に書いたのは、過去の作品から学んでほしいので。作風やジャンルを真似してほしいということではなく、梗概の書き方に注目してほしい。作風は自分で作ってもいいし、似たような人を参考にしてもいい。

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★『めたらやたらとユーレはあつい』 稲田一声

半日前に殺された巻上マリは、気がつくと自分が幽霊になっていた。同じ幽霊である『先生』が言うには、幽霊は人間に触れることで熱を奪うことができるという。マリは自分を殺したと思われる男に復讐しようとするが……。

5期聴講生の稲田先生による、第2回の梗概。ストーリー良し、キャラクター良し、SF設定ギミック良しの、スキのない梗概。

 

★『AI、無人島を脱出できず』進藤尚典

 天才プログラマーにつくられたAIのポゾ。ニューヨークへと旅立った製作者を追いかけるため、ポゾは無人島の研究所からの脱出を目指す。ポゾはお金を稼ぐためにバーチャルユーチューバー『ポゾ子』になり……。

 第3期大森望賞、『推しの三原則 』の進藤先生の第1回目の梗概。AIの話なのに設定がぶっとびすぎているギャグSF。少し改行が多い気がするが、ストーリーがどんどん思いもかけないところに展開し、評価された。「SF設定は科学的なリアリティが必要」、というのを崩してくれる梗概。

『ポゾは自分をメールに添付して送ろうとするが、容量が大きすぎて入らない』の衝撃。

 

★『踊るつまさきと虹の都市』 榛見あきる

近未来、外套に電子身体を投影できる世界。チベット高地の仏教学都で、バレエのレッスンを受ける隻腕の少年ペーマ。彼は自分の電子身体である羅刹女ラクシャシー)を取り戻すため、電子身体を利用したダンスオーディションに挑む。

 第4期の最優秀賞作品の梗概。(実作は47000字)。最終実作は梗概選出はないが、高評価だった印象。梗概がすこし実作の文に近すぎている気がするが、設定をたくさん考えている作品の代表ということで。最終実作なので、これをいきなり目指すのはまずいと思うが。

 

★『オール・ワールド・イズ・ア・ヒーロー』黒田渚

映像ストーリー自動作成エンジン「ミューズ」のもと、仮想世界上で演技行動をする役者AIたち。ヒーロー役のテピスは奮闘するが、彼らは視聴者からの人気度(フレーム)が下がると、自分たちが消えてしまうことを知っていて……。

自分の第4期、第3回の梗概。満票選出。ほぼ設定のアイデア勝ちのようなもので、ストーリーはあまり具体的に書かれていない。あと細かな設定がつめ切れていないので、ここから書くのに苦労した。審査員からは、「いろんな設定を詰め込むと、おもしろそうなストーリーができそう」とのこと。

 

 梗概を書くのにどのくらいの期間が必要か

イデアがすでにあれば1週間だったり、1から勉強するなら1か月かかっても難しいときもある。たとえばいまからチベット仏教の話について書こうとしたら、資料を集めたり勉強したりで結構な時間がかかるだろう。つまり得意なこと・詳しいことで勝負したほうが時間は稼げる。

自分は普通に3週間まるまるかかる。

 

梗概に書くべき要素

梗概は、「さっき見た映画のストーリーを、友達にオチまで説明する」ことと似ていると思う。そういうときは大体おもしろいシーンしか言わないし、どうでもいい繋ぎのシーンは省くだろう。(このストーリーの説明が、本当に苦手な人もいるが)。

 

① SF設定。SFは設定でおもしろさの3分の1が決まる(かもしれない)。あとはその設定をうまくストーリーに生かすことである。よくある、「こういうSF的な設定や特殊能力を考えたが、科学的な説明やしくみはあとで実作のときに考えます」というのはよろしくない。読んでいるひとが納得できないからだ。それはミステリで「奇抜な殺人事件は考えましたが、トリックは後で考えます」と似たようなものである。そのトリックが知りたいのだ。

どこまで論理的に説明するかは、その物語のリアリティにもよるが、「読んだ人が納得できたらOK」かと思っている。どの程度説明するかは、似たような商業作品を参考にしたりする。

② ストーリー。物語がないとやはり厳しい。とくに「設定だけでストーリーがない」というのはよくある落とし穴である。がんばって考えたSF設定を生かすような物語にしよう。

③ キャラクター。あまり重要視された記憶はないが、SF設定と絡めるなら重要。

④ オチ。絶対に書こう。


 

梗概はどこまでストーリーを考えればよいのか

小説を作る工程として、

① 梗概(400ー1200字) → ② プロット、③キャラクター履歴書、④設定表、年表 → ⑤ 実作

 

と進むと思う。プロットとは、ここでは1シーン(場面)ごとの5W1Hを書いて、そのシーンでどんなことが起きるかを書いたもの、ということにする。映画だったら「はこ書き」などと言ったりするのだろうか。(このあたりはよくわかってない)。A7サイズの用紙に書いたり(カードプロット)、大きな付箋に書いたりする人もいる。ここでシーンを前後に入れ替えたり、いらないシーンを削ったりする。

 

つまり梗概を書くときは、各場面の細かい5W1Hまではいらないが、おおまかな話の流れは考えておく必要がある。先述した「映画のおもしろいところを説明する」では、どうでもいいシーンは説明しないし、面白い設定やシーンは細かく話すだろう。つまり重要なSF設定や、盛り上がるシーン、キャラクターなどは、細かく決めておく必要がある。(上述の選出梗概を見てほしい)

最初は①梗概を書くために、②や③を考えて行ったり戻ったりするだろう。やってはいけないのは、⑤実作を書いてから梗概を書く、のはやってはいけない。

 

じゃあ具体的にどうやって話を考えればいいの? というのは、人それぞれでよくわからない。よくシナリオの本に「この項目を埋めていけば自動的にストーリーができる」というのがあるが、使ったことがないので紹介できない。

 自分はまず出されたテーマをじっくり見つめ、自分の書きたいアイデアと共通点はないか、じっくりじっくり考えてストーリーを作る。正直、時間がかかってしょうがない。


 

短編50枚におさまるストーリー

次のステップとして、実作(50枚、約18000字)を見すえた梗概を書くというのがある。50枚と言ったら、ドラマやアニメで言ったらだいたい30分くらい。(最近こういう30分ぽっきりのドラマやアニメがあるのかはわからないが、かなり難しいサイズだ)。シリーズものの30分ではなく、事前情報はいっさいなし、続編もなし、映像がスタートしてキャラ説明して舞台説明して、ドラマがあってオチがあって満足のいく30分アニメは、結構大変である。

 

いま、受講生の中には、アイデアがあふれるほどある人や、ネタがさっぱり出てこない人がいると思う。アイデアをたくさん詰め込んでも、50枚には入りきらないことが多い。詰め込んだ梗概は、とっちらかってしまって面白くないことがよくある。上述の梗概は、「つまさき」以外は大体50枚に収まりそうな話である。

 

初心者の方は、自分が作った梗概が、50枚に収まるかどうか見積もるのが難しいと思う。自分は作品の長さを、「キャラクターの数」、「作中の時間の長さ」、「場所の数」、「設定の数」で見積もる。50枚なら、主要キャラクター(成長したり見せ場があったりするキャラ)は多くて3人、作中の時間は3日~長くて1カ月、出てくる場所は3、4つくらいかと思う。過去話や幼少期の話を書き始めると、どんどん枚数が足らなくなる。また設定は、現代の学校なら説明は1行ですむが、未来の異星の話なら説明がたくさん必要だろう。

逆に言うと、「長すぎるな」と思ったら、キャラクターを減らすか、作中時間を減らすか、場所を減らすか、設定を減らす。ジャンプ漫画も、新キャラが増えたりキャラの「過去編」をしたり新しい島に向かったら、話が延びるだろう。

 

書くべきこと、書かないこと

 梗概には字数制限があるので、どうしても「書くべきこと」「書かないこと」と取捨選択が必要になる。読む相手の主任講師のことを考えたらどうだろう。主任講師はSF、書評家のプロである。そんなプロに、すでに知っていそうな既存のSF設定の説明をしても、おもしろくないしあまり効果的ではない。逆に、主任講師の知らなさそうなこと、専門外かもしれないことは、後述の自己アピなどに出典や元ネタなどを書いた方がよい。

もちろん作者が考えたストーリーや設定は、作者しか知らないので、しっかりと書く必要がある。

 

現実にはかなり荒唐無稽な事件があるし、それをもとにして物語を書いても、「そんなの現実的じゃないよ」と思われることがある。よって、「これにはちゃんと根拠があるんです」「自分が好き勝手に考えたことじゃないんです」と説明することは大事だし、どこからが作者オリジナルでどこまでが事実に基づいているのか、分けることは大事である。


 

自己アピールの書き方

基本的に、梗概で書けないこと、製作の裏話や作者の意図、出典や参考文献、設定の元ネタなどを書く。また書くきっかけとなった、似ているプロの商業作品を書いても良い。梗概に書けそうな追加の梗概を自己アピに書くのは、あまり効果的ではない。(上述の選出梗概を参考に)。

 

自分はよく、「これを書こうと思ったきっかけ」「このアイデアのここがおもしろと思った」「これが書きたいと思った」的なことを書く。正直、審査には影響はないかもしれないが、「もともと何が面白いと思って書き始めたのか」と、自分の頭の整理になる。
またこれは感想会からの立場だが、「このアイデアを書きたいと思った」と書いてくれていたら、こちらは「それならこうしたほうがいい」とアドバイスがしやすい。審査員も、梗概から意図をくみ取れなかった場合、「そういうつもりなのね」と納得するだろう。

よくない自己アピ

たまにある「実作では悲劇的に書こうと思います」というのは、あまりよくない。悲劇のストーリーの梗概なら、一読した人がちょっとウルっとするくらいでないといけない。『ロミオとジュリエット』の梗概を書いて、自己アピに「悲劇的に書こうと思います」とあっても、「見ればわかるよ」となるし、ロミジュリの梗概を読んで悲劇だと思われなかったら、それは梗概がかなりまずい、ということになる。

「ギャグで書こうと思います」というような梗概なら、梗概の時点で3、4回笑わせないといけないだろう。 

 

また「ロボットの心とはなにか、を書こうと思います」等も、自分はあまり良いとは思えない。おもしろいと思えないからである。それなら、「ロボットの心とはコロッケのようだと思います。なぜなら〇〇だから」くらい、言い切ったほうがおもしろいし、それを梗概につっこんでおいたほうが、面白いからである。つまり「〇〇とはなんなのか?命とは?」ではなく、「命とは〇〇である」と、結論まで考えたほうが良いと思う。