まほうのことば

小説の新人賞などに応募しています。本の話や創作の反省。黒田なぎさ

『メカニカル・プランナー』

school.genron.co.jp

 

↑ の修正版。

 

 

 近未来、ヒューマノイドが人権を少しずつ獲得し、人口の数%を超えるようになった時代。
 ナシータとルチルは女性のヒューマノイドで、ロボット専門のウェディングプランナーだった。ふたりは去年、所長のナシータが社員ルチルの告白を受け、近々結婚の予定だった。

 この時代のヒューマノイドは、人間とほぼ同じ見た目をしていた。両者の幾度かの紛争のあと、ロボットは人間との摩擦を抑えるため、過度な進化を控えていた。人と同じものを食べ、老化し、寿命で機能停止するプログラムを搭載していた。
 しかし、ロボットの電脳はネット上に存在する超AI、Iris<イーリス>とつねに通信し、生活に必要なあらゆるデータはそこから得ていた。Irisがなければメディカルチェックも行われず、ロボット同士の通信にも制限がかかった。
 
 ヒューマノイドが夫婦となる儀式には、古くから信じられている迷信が存在した。Irisを通じたカップル同士の接続や、データの共有が深いほど長続きすると言われていた。常に信号を飛ばしあうカップル、感情や思考を共有する夫婦、ふたりの記憶を完全に統合するものまでいた。
 
 所長のナシータは離婚経験があり、理由は自分のワーカーホリックだった。ルチルには愛情を持っているものの、いまひとつ結婚に踏み切れない。それはナシータが、お客の幸せを第一に考えているからであり、自分のことは二の次になりがちだったからである。ナシータはIrisを通じて、ルチルと仕事上の通信は行うものの、プライベートでの通信は控えていた。

 そんななか、ひとりのクライアントがやってくる。それはナシータの元パートナーである女性、セシルだった。彼女は記憶を消してモデルチェンジをしており、少年のような姿になっていた。彼女はナシータのことを一切覚えていなかった。セシルは数年前に亡くなったパートナーのメモリを持ち込み、メモリから再現したグラフィックとの結婚を希望していた。
 ナシータは彼女に未練はなかったものの、結婚前でナーバスになっていたメンタルが不安定になる。さらに、昔、解除したと思っていたセシルとの感情共有が入り、余計にナシータはざわついた。ルチルはそれを見て嫉妬し、ナシータと共有を深めたいと思う。

 ナシータは迷いながらもセシルらの結婚式をすませる。セシルは死んだパートナーと記憶を共有し、精神不安定になりながらも幸せそうだった。
 その夜、セシルを見届けたふたりは、Irisを通じた共有を始める。メモリ、感情、五感のすべてを共有した。完全に一体となったとき、ふたりは満ち足りた夜を迎えた。しかし、知り尽くしてしまったという虚無感と、理由のない強烈な寂しさを感じた。それはお互いの動きが100%予想でき、これからどんな感情になるか、何もかもが理解しあえた状態だった。
 ふたりは自然な成り行きで、ひとつひとつの共有を切断していき、Irisとの接続も断ち切ってしまった。朝目覚めると、無線は使えず、データは流れてこず、お互いの存在が全くつかめない。ただ視覚で相手の姿を捕らえたとき、なぜか相手をとても愛しく感じた。ふたりはIrisから独立し、お互いを支えあうことを結婚とした。

 


文字数:1311字

 

 

アピール

 

 百合SFを書こうと思いました。正直、もともとあまり百合は好きではなかったのですが、あるインタビューを見て「百合は新しい関係性を定義づけること」と考え、なるほどと思いました。ヒューマノイド同士の百合はベタだったかもしれませんが、書きたいと思いました。(途中から普通の人間ドラマになりそうでしたが……)

最初は取材というより、ただの先行文献の調査でした。ブライダル業界の友人もいるのですが、あまり現実のブライダル事情を聞くとどんどん現実に近づき、SFから離れてしまう気がしたので、取材は悩み中です。

世界設定は『AIの遺電子』を参考にしました。

『アステリズムに花束を 百合SFアンソロジー 』  早川書房, 2019
『ウェディングプランナー 』, 五十嵐貴久, 祥伝社, 2018
『最新ブライダル業界の動向とカラクリがよくわかる本』 粂美奈子, 秀和システム, 2018

文字数:371