まほうのことば

小説の新人賞などに応募しています。本の話や創作の反省。黒田なぎさ

24人のビリーミリガン 下

 

 

 

 

・レイプ事件を起こし、裁判で無罪となったビリー・ミリガン。新たに現れた統合人格【教師】によって語られるビリーの過去。ビリーはなぜレイプ事件を起こしたのか、ビリーはいつ23人もの別人格を生み出したのか。

・裁判後、ビリーは精神病院を転々としていたらしい。報道と州民感情もかなり影響があり、議員まで発言する始末。よほど当時にとっては衝撃だったんだろうな。

・人格の統合がすすみ、統合人格は、それまで副人格がもっていた特殊能力、技能が統一され、ひとりの人間になろうとしていた。

・統合が進んでいたところ、ひどい病院に移ることになり、また人格が分裂してしまう。多くの年長者の人格が希望を失い、自殺を図ろうとする。

 

 

・参考になりそうなところ

”言い争う声はアパートの内部から聞こえてくる。 ぱっと身体をまわし、言った。「動くな!  ふたりとも殺すぞ」 声はやんだ。

やがてレイゲンの頭のなかで声がした。「おれに黙れなんて言うやつは誰だ」「姿をあらわせ、さもないと撃つぞ」「何を撃つ ん だ」 「おまえ は どこ に いる」 「教え て やっ ても 信じ ねえ だろ う よ」 「どういう こと だ」 「どこ に いる か わから ねえ ん だ。 おれ は 自分 が どこ に いる のか わか ん ねえ」 「いったい 何 の 話 を し て いる」 「ケヴィン と 喧嘩 し てる」 「ケヴィン て 誰 だ」

自分 が どんなに 破壊的 な 力 を 持っ て いる か 知っ て いる だろ う。 憎悪 は 暴力 によって 多く の もの を 征服 できる が、 手 に 負え ない ところ が ある。 かりに 憎悪 の 物理的 な 力 を 管理 し、 邪悪 な 面 を 捨てよ う と し た と する。 それでも 悪い 特徴 を 持つ 憎悪 は 残る。 われわれ の 心 は きみ の 暴力 を 抑制 し、 怒り を 適切 に 選択 し て 手 に 負える もの に し て おこ う と し た。 きみ が 怒り なし に 強く なる ため には、 邪悪 な 部分 を そぎ 落とさ なけれ ば なら なかっ た。 それで フィリップ と ケヴィン が 生まれ た ん だ」 「やつ ら は おれ と 同じ なのか」 (Kindle の位置No.2108-2113). 

「デイヴィッド と ダニー は、 他人 に 感情移入 できる わたし の 一部 な ん です」〈 教師〉 は 作家 に 説明 し た。「 彼ら は 誰 が つらい 思い を し て いる か 感じとれる ん です。 誰 かが 離れ て いき、 心 を 乱し て いる と、 その 人 たち が いる ところ に 灯台 が ある よう な もの な ん です。 それで ダニー と デイヴィッド は そちら の 方向 を 指し示せ ば いい ん です」

ダニエル キイス. 24人のビリー・ミリガン〔新版〕 下 (ハヤカワ文庫NF) (Kindle の位置No.2765-2768). 早川書房. Kindle 版.

  ダニー は ループ に、 新聞 などで とりあげ られ て いる こと に レイ ゲン が ひどく 腹 を たて、 自殺 し て 決着 を つけ た がっ て いる よう だ と 言っ た。 その ため に 小さな 子供 たち が 怯え て いる、 と。 ループ は ビリー の まぶた が 震え、 光 を 失っ た 目 が きょろきょろ 動く のを 見 て、 ミリ ガン の 人格 が 交代 し た の だ と わかっ た。 そこ に 出 て き た 小さな 男の子 は、 身体 を すくま せ、 すすり泣き、 苦痛 を 感じ て いる よう に 見え た。

ダニエル キイス. 24人のビリー・ミリガン〔新版〕 下 (ハヤカワ文庫NF) (Kindle の位置No.3050-3053). 早川書房. Kindle 版.

だ ね。 なんで、『 やあ、 わたし は〈 教師〉 です よ』 と 言っ て くれ なかっ た ん だ」 〈教師〉 は 肩 を すくめ た。「 あなた に また 会う という 感じ じゃ なかっ た から です。 分裂 し た ビリー が あなた と 話し て まし た。 ふい に レイ ゲン が 会話 に 加わり、 アーサー も 出 て き まし た。 彼ら も 話す こと が あっ た から です。 それ に ある 意味 では、 照れくさい です からね、 突然、『 やあ、 元気 です か』 なんて 言いだす のは。 あなた と ずっと 話し て た のに、 そう じゃ ない みたい だ

ダニエル キイス. 24人のビリー・ミリガン〔新版〕 下 (ハヤカワ文庫NF) (Kindle の位置No.3338-3342). 早川書房. Kindle 版.

 

〈教師〉 は 自分 の 態度 に 愕然 と し、 不安 に なっ た。 人格 たち――〈 教師〉 として、 いま は「 人々」 では なく「 人格」 という 言葉 を 受け入れ て い た―― を 自分 の 一部 だ と 信じる よう に なっ て い た。 ふい に、 これ までに なかっ た こと だ が、 人格 の 交代 なし に、 彼ら と 同じ よう な 感じ を 経験 し た。 これ は ほんとう の 意味 での 統合 だっ た。 彼 は 二十 四 の 人格 を そなえ た 人間 と なっ た の だ。 その 結果 生まれ た のは、 ロビン・フッド でも スーパーマン でも なく、 ごく ふつう の、 反 社会的 な、 気 が 短く て、 ごまかし の うまい、 聡明 で 才能 に 恵まれ た 青年 だっ た。   ドクター・ジョージ・ハーディング

(Kindle の位置No.3371-3376). 早川書房. Kindle 版.

た。 トミー と 交代 する こと なく、 鍵 も ない のに 錠 の おり た ドア を あけ て い た。 レイ ゲン と 交代 する こと なく、 新しい オートバイ を 乗りまわし、 しかも レイ ゲン が やる よう に、 丘 の 急斜面 を 登っ た。 レイ ゲン が 感じ た よう に、 アドレナリン が 脈動 する のを 感じ、 自分 の 肉体 を 意識 し た。 彼 自身 は バイク に 乗っ た 経験 が ない のに、 筋肉 が 自在 に 動い た。   非 社交的 になり、 ほか の 患者 に いらだち、 スタッフ

ダニエル キイス. 24人のビリー・ミリガン〔新版〕 下 (ハヤカワ文庫NF) (Kindle の位置No.3441-3445). 早川書房. Kindle 版.

 

アレン は 尋ね た。 「ドクター・コール 以外 には、 誰 にも 知らせる な」 レイ ゲン が きっぱり と 言っ た。 「そう だ な。〈 教師〉 は 午後一 時 に 作家 と いつも の アポイントメント が ある。〈 教師〉 は あらわれる だろ う か」 「さあ、 どう かな」 アーサー は 言っ た。「〈 教師〉 は 消え た。 橋 の 上 で すくん で しまっ た のが 恥ずかしい ん だろ う」 「じゃあ、 作家 に どう 言え ば いい ん だ」 「あんた は しゃべる のが うまい」 レイ ゲン は 言っ た。「〈 教師〉 の ふり を しろ よ」 「さとら れ て しまう よ」 「きみ が〈 教師〉 だ と 名乗れ

ダニエル キイス. 24人のビリー・ミリガン〔新版〕 下 (ハヤカワ文庫NF) (Kindle の位置No.3555-3560). 早川書房. Kindle 版.

  病院 へ 面会 に いく と、 トミー が わたし に、 アーサー が 治療 と 回復 の 望み を 失い、 自殺 する 決心 を し た の だ と 言っ た。

ダニエル キイス. 24人のビリー・ミリガン〔新版〕 下 (ハヤカワ文庫NF) (Kindle の位置No.4468-4469). 早川書房. Kindle 版.

 

1   すべて の 人格 を 区別 し、 認める こと。 2   治療 者 は その よう な 人格 が 存在 する 理由 を たしかめ なけれ ば なら ない。 3   治療 者 は 変化 を 生じ させる ため に、 人格 すべて にたいする 治療 を すすん で 行なわ なけれ ば なら ない。

 (Kindle の位置No.4089-4092). 早川書房. Kindle 版.

  治療 者 は 良い 面 を 見つける こと が できれ ば それに 注目 し、 別 人格 相互、 とくに 自己 もしくは 他者 に 危害 を 加える 恐れ の ある 人格 の あいだ に、 何らかの 妥協 を もたらす よう 努める べき で ある。 5   積極的 な 解決 に 至る ため には、 患者 自身 が 問題 の 本質 と 大き さを 完全 に 自覚 する 必要 が あり、 また 治療 を通じて 援助 を 受ける べき で ある。 言い換えれ ば、 患者 は 治療 を 受動的 に 受ける だけで なく、 治療 の 過程 を 知っ て い なけれ ば なら ない。

 (Kindle の位置No.4092-4096). 早川書房. Kindle 版.

続編

 

ビリー・ミリガンと23の棺〈上〉

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