まほうのことば

小説の新人賞などに応募しています。本の話や創作の反省。黒田なぎさ

ゴースト・イン・ザ・シェル(吹替版)

※少しネタバレ。でもいいところを書いた方がよいと思う

 

ghostshell.jp

 

・何も期待してなかったけど、意外とよかった。まあ年2回くらいしか映画見ないんですが。原作マンガ、アニメシリーズ(1~2期)、アニメ映画、ゲーム(PS2)を最近見ていた。

 (既出の作品群がすばらしかったので、実写がダメでもどうでもよかった。)

 

★ 吹き替えか字幕か
 いつもは字幕を見ていて、すごく悩んだけど、今回は映画の物語性を楽しんだ方がいいらしいので、フンイキ重視より意味理解を重視した。結果的に吹き替えでよかったと思う。アニメシリーズと声優さんが同じなので、ギャップで苦しくなるかなと思ったけど、そうでもなかった

★ テーマ
 事故により体を失ったミラ・キリアン少佐が、体も頭も人工的なものに置き換え(義体化)、テロリストを鎮圧する公安9課へ入る。義体化前の記憶があまりない少佐が、テロリスト『クゼ』を追ううちに、自分の本当の過去を知る。簡単に言うと『少佐の記憶をさがす旅』。

 ロボットと人間の境目がテーマ。こういうベタなテーマほんと好き。原作の設定と、現代の人工知能とかのテーマをブレンドした感じ。テーマはそんなに新規性もない(と思う)。現実がこれからこんな世界になりそうだけどどうだろうか、という感じ

 

★ ミラ・キリアン少佐(スカーレット・ヨハンソン田中敦子
 主人公。記憶がないのでアイデンティティがないらしく、無茶な作戦をバリバリとる。『目』にフォーカスがあたるシーンがいっぱいあるのだけど、迷う演技と戸惑う演技がいい。
 原作は草なぎモトコという名前で、今回もそれが大事なキーワード。というか予想がつくネタバレだ……。

★ バトー大塚明夫
 少佐の相棒で巨漢。めっちゃ出番がある。わんこ好き。大塚さんボイスだと大男に「やさしさ」とか「ユーモア」が加わって良い。少佐との軽口の叩き合いが好き。というか最後らへん、少佐が自分の過去を知ってビビるのだけど、それをバトーさんが励ますところ、完全にカップルでは。
 じつは本編途中までトレードマークの義眼ではなく、俳優さんのキュートなくりくりおめめ。それもかわいい。
 『聞いたぜ、もうひとつ名前があるんだろ?』 かっこええ……。

 

★課長(北野武

 少佐たちの上司。原作では戦闘力0、交渉力100という感じのおじさんだったけど、今回は銃をばんばんぶっ放すファンサービスシーン。アウトレイジかな? 話すのは日本語だけど、機械で同時翻訳ができている設定。字幕版ではまた印象が変わるかもしれない。

★クゼ (小山力也
 わるいテロリスト。敵役。かっこいい。声いい。この人のことを話すと全部ネタバレになる。

★ トグサ(山ちゃん)
 少佐の同僚。出番がわりと少なくて、山ちゃんの無駄づかいという感じだけど、これ以上キャラが出るとごちゃごちゃするのでしょうがない。部隊にアジア人いるのいいよね。俳優は中国人さん。

★ 公安9課の女の子隊員
 原作にはいない人。原作の公安9課は男ばっかりでそれも好きだった。バイオハザードのあの子みたいや……

★  桃井かおり
 急に出てきてびっくりした。でもいい役だった。

  

 結局テーマの答えがなんだったのかアレだったけど、みんな幸せでよかった。小さくコンパクトにまとまった感じだったけど、超名作アニメの実写化でここまでできたらすごいと思う。

 

※追記

★ 作品の位置づけ
 攻殻機動隊がはじめての人でもちゃんと見れる作品。むしろ、「アニメシリーズあるよ! ここで紹介した電脳戦、ハック戦、肉弾戦、チームミッションいっぱいあるよ!」と聞くとほかのシリーズが見たくなると思う。
★ SF映画として
 最先端からは逆行しているような気はするけど、イイ基礎研究を見た感じだった。つまり『義体化、電脳化、記憶の書き換えができる世界を実写で表現したらどうなるか』の答えを出してくれたような。もっとはっちゃけてもよかったかもしれないけど、原作リスペクトしてさらにオリジナリティ出すって大変だよね……

How to Write a Lot!

・よんだ

できる研究者の論文生産術 どうすれば「たくさん」書けるのか (KS科学一般書)

できる研究者の論文生産術 どうすれば「たくさん」書けるのか (KS科学一般書)

 

 ・著者は心理学の准教授。アメリカではけっこう売れた本らしい。

 原題は「How to Write a Lot」(文章をたくさん書く方法)

・論文生産術とあるが、なにかを書く仕事の人なら誰でも読んでいい本だと思う(※追記 書くことが本業ではなく、副業の人。1日長時間、書くことが仕事なら向いてないかも)。なぜなら研究者は論文だけでなく大量の申請書も本の原稿も書くので、書くのも大事な仕事(の一部)。教授は学生の世話とか大学の事務とか研究で手いっぱいで、マルチタスクの鬼だし、研究がしたいのに論文書くなんて死ぬほどイヤという人もいる。(でも成果は論文でしか発表できない)。また作業をルーチン化することにおいては専門化で、結果も定量化できる。

(・あと個人的には、作家さんに言われるより研究者に言われたほうが反発が少ない……あと翻訳ものだと、すこしきついジョークとか皮肉でも、ユーモアとして受け入れられる。スッと読めるのはよいことだし、中身も練られていてすっきりしている。書くことをアドバイスしてる本なのに、その本自体の文がめちゃくちゃだと説得力がない)

 

・結論から言うと、「週3でも毎日でもいいから、書く時間帯(朝9時~10時とか)を決めて、そのときは必ず(絶対に)机に向かいなさい」ということ。ぼんやりした、「申請書をしあげる」、「原稿を書く」という目標を→この時間はデスクに向かう、というタスクに変換している。また著者は『一気書き』派をやめて、書くことをルーチン化しなさいと言っている。毎日1時間とか決めていると、執筆工程が自然に細分化されて、スケジュールも組みやすい

・意外だったのは、原稿を書くためのデータの準備や、関連論文を読むこと、推敲することも、書く時間に充てていいとのこと。『書くというのは、文字を入力するだけではない。書くというプロジェクトを遂行するうえで必要な作業は、すべて執筆作業だと考えてよい』。これが意外で、つい原稿枚数至上主義になると、準備を無視しがちになる。

 

・あとは「では何から書くか?(優先順位:〆切が近い順にしなさいとか。重要度が高い順)」「目標、進行状況はどう記録するか」など。

・心配なのは、〆切が近づいて、ルーチンの時間内に原稿が終わらなかったらどうするんだろうということ……。どうするんだろう。著者は決めた時間を超えて執筆することを「ボーナス書き」と呼んでいる。しかしボーナスがあったからと言って、次の日の書く作業を辞めていいというわけではない。それはやってはいけない。またひとつの大きな作業が終わったあと、自分へのごほうびに書く休みの日を入れてもいけない。「それは禁煙成功のごほうびにタバコをあげるようなものである」。めっちゃ笑った。

 

追記:さっそく夜19時~20時に執筆時間をぶちこもうとしたけれど、司書勉強の締め切りがゴリゴリ近づいているのでだめだった……やはり締め切りとの兼ね合いでござる。活動をギュウギュウに入れても時間が足りない。3週間サボってたせい。参った。

りーう”・りざいん

 ウフフ。今日は文体を変えたりしてみたり。おぼえがきの雑記だらけ。

 

★ 勤め先の上司に辞職のことをつたえた。

 言う前の期間はなにもする気が起きず、すごくぼんやりしていた。作業記録をつけてないのだけどおそらく3週間は完全にボンヤリしていた。それはどうしてかというと、『やめます』と言うと給料がとだえる。言う前はなにも言ってないので何も動かない。だけど言ってしまうとそこからヨーイドンで貯金が減っていくのである。実際やめるのは2カ月先かもしれないけど、準備ができているか、見通しは立っているか、の自問をずっとしていて、創作どころではなかった感じがある。とてももったいなかったけど仕方がない。そしてかなり苦しかった。後で考えると、もっとスムーズに言っても良かったと思う。

 

 辞める理由は関東圏に行くかーということで、会社がイヤだったからとかではなく。むしろ条件を考えたらとても良い会社だった。関東に移転してほしかった。
 ずっと上司と2人になるタイミングをうかがっていたのだけどそれができず、最終的に皆がいる前で「お話があるのですが」と無理に連れ出してしまった。上司はカフェに連れ出そうとしてくれたけど、近くにお店がなかったのでとりあえずドライブして話した。特に引き留めもせずとりあえず応援してくれた。とても良い人だった。すばらしい人だった。(それがわかったのが辞めるときってどういうことだ)。理性的で、余計なことをせず、つねにフラットで、たまに褒める、たまに無茶ぶりする、いつでも冷静だった。部下でもスッと話を聞いてくれた。今後、中小企業の社長やリーダーになるとき、この人をモデルの1人にするだろうと思った。
 私はどうも大人との間にものすごい壁をつくってしまうらしく、なんだかわからないけど怒られると思っているのか話しかけようとしない。それはよくないと思う。学生時代のころは、日ごろからその人と雑談なりして、コミュニケーションルートを作っていて、そうしないといざというときの報告や相談ができなくなるからだった。だけど社会人になるとその時間がなく(?)、みな仕事ばかりしているのでルートが作れない。まいった。即ドカンとルートを作るしかないのだろうか。そもそも本音とはなにか。

 とりあえず今のプロジェクトもあるので、いつ辞めるかは返事待ちとなった。

 

 で、伝えた次の日の土日、やはり作業がずんずん進み、いつもの2倍ぐらい動いたかもしれない。むしろ先のことを考えていないので、焦っているとも言える。たまっていた作業を早く終わらせたい気持ちが出て余計にやばくなっている。大丈夫でしょうかこの子。病院の予約とかしちゃったりして。目とか歯とか筋肉とかまずそうなところがけっこうある。

 正直、つたえた日の帰宅したあとの夜は、上司がいい人すぎて泣きそうになってしまった。ありがたすぎて泣くぜ……というか。次の日には元気になっていたけれど。

 

★ 今後のことはあまり考えていない。日にちが決まらないとしょうがない気もする。とりあえず遅れまくっている司書資格と、完全に止まっていた原稿を……。転職まで原稿を休んでいたら、おそらく書けなくなるので良くないと思う。心情的には書きたくないのだけど、止まっていたらおそらく次のスタートができない。
 英語が勉強したい……けどこれから使う予定はおそらくない。英語は便利だけど、必須スキルというわけでもないし、お金を稼げるスキルでもない。いや翻訳もあるにはあるけど。工学の研究者も、研究で稼いでるわけであって英語で稼いでるわけではない(ただし英語は必須)。とエラソーに言ってみるがやっぱり勉強したい。近ごろ勉強ばかりでいいのかどうか。

 

★( 緊張でおかしくなってる期間中に原稿が書けたか、と聞かれると、どうだろうか。やっぱり厳しい気がする。明日のこともわからない状況では書けそうもない。どうも自分はこういう対人プレッシャーみたいなのが弱点属性らしく、隔週でつらいミーティングがあったときもダメだった。こういうときのメンタル管理方法を知りたい。

 例えばあしたが学会の発表とかなら平気である。プレゼンは平気だから。もちろんプレゼンで企画の可否が決まるとかなら厳しいけど……。明日が取引先との営業ならどうだろう。やることが決まってて知ってるなら平気である。だけどそこで取引の成功失敗が決まるならやはり緊張する。ここが差だろうか。自分のふるまいで結果が変動する→ずっと気合入れないといけない→しぬ、というプロセス。100%のパフォーマンスを発揮しないといけないというプレッシャー。これがつらい。本当は70%でもいいのかもしれないけど成功したことないからギリギリがわからない。そして私はいつも寝不足である。それがよくない。

 そう、つまり斬られる間合いを知っておけば余裕ぶっこいていられるけど、間合いを知らないと常に緊張を強いられる。みたいな感じか。)

 

読書ランキング

・ここ1、2年で読んだ読書(小説)のランキングをつくってみたい。好きランキングなのかすごいランキングなのか

・よく「自分の好きなゲームベスト10」とかで、子どもにプレイしたゲームがいまだにランクインされてしまう。それをちゃんと更新したい。

・じゃあ思い出に残ってる本てなんだ、となると、『キーリ』とか、『魔女と暮らせば―大魔法使いクレストマンシー』とかになる。明らかに影響うけてるっぽいやつ……この思い出が消えることはなく、おそらく別の記憶のところに保存されて、永遠に上書きされないんだと思う。参った

 とりあえず小説の中から選ぶ。

・基準A:読んだときの衝撃度
・基準B:後から何回も読んでるかどうか →結局、どちらかがあればいまでも記憶に残っている

卵の緒 (新潮文庫)

卵の緒 (新潮文庫)

 

 坊っちゃん文学賞受賞作。というかこれ読んだの5年以上前だった……。何回も読んでるけど、実は展開はあまり覚えていない。けど言葉が単純なのにすごすぎた。 

天国はまだ遠く (新潮文庫)

天国はまだ遠く (新潮文庫)

 

これも5年前じゃないか。
正直、このときは精神がかなり不安定だったので、その影響もあって、感動しすぎた。瀬尾先生はすごい。

夜と霧 新版

夜と霧 新版

 

(小説じゃない)。アウシュビッツに連れていかれた精神科医の先生の記録。過酷なのにぜんぜん暗くなく、基本的に淡々としてる。(むしろどういうときに楽しいか?みたいな考察がある)やっぱり古典というか名作の力はすごい。 今でもたまに読む

わたしを離さないで (ハヤカワepi文庫)

わたしを離さないで (ハヤカワepi文庫)

 

イギリス、ブッカー賞作家の名作。スッと読めて、最初はわけわからないけど、序中盤から読ませる。記憶のたぐり方がうまくてぴょーんてなる。

夏への扉 (ハヤカワ文庫SF)

夏への扉 (ハヤカワ文庫SF)

 

・タイムトラベルもの。技術者がいっぱいで笑う。

 

・結局のところ、小説があまり出てこない……参った。(『新・観光立国論』とか読んでるからだ)。私は本を読んでるつもりだったのだけど、小説は避けてたのかな。うーん。

 

・以下、ここ2年くらいで読んだ長編(一部)

確かに記憶には残っているんだけど、もう一度読むかというと微妙。ぜんぜん楽しめてないのかな……うーん。エンタメに向いてないんですかね。

 

百年法 (上) (角川文庫) 百年法 (下) (角川文庫) 山田宗樹

Red 島本理生

鹿の王 (上) ‐‐生き残った者‐‐ 上橋菜穂子

星々の舟 Voyage Through Stars (文春文庫) 村山由香

七夜物語(上) 七夜物語(下) 川上弘美 

海の底 (角川文庫) 有川浩

土漠の花 月村了衛

 

 

えんため

・アニメのOPを飛ばすことが多くなった

・早く本編を見たい……というわけではないかもしれない。あのワクワク感?みたいなのがあまり好きじゃないのかも。(あとOP曲の謎の歌詞)

・そういえば映画の最初の予告パックも見ないで、本を読んでいた。サイテーかもしれないのだけど、ワクワクするのがめんどくさい、というのは創作屋としてかなりヤバイのではなかろうか。

・あ、でも攻殻機動隊は見てた

・本とマンガに気を取られすぎていて、映像作品がしんどくなったのか、それとも単に歳をとっただけなんだろうか。高橋道雄先生みたいにあとでアニメにハマるのかもしれない

 

・エンタメを楽しむときはね、誰にも邪魔されず、自由でなんというか救われてなきゃあダメなんだ、独りで静かで豊かで……という言葉を今つくった。

本の読み方

・いままで本を買うとき、「読みたい意欲」を最重要視していた。
たとえば好奇心とか、読んでみたいという気持ち。これがとても貴重?なものだと思っていたし、この気持ちを逃したくないと思っていたので、「読みたい」と思った瞬間に買え、いつでもどこでも読める電子書籍とかが中心になりがちだった。

→ なので、大規模セールとかをさっぱり見ないで、割引されてない本を買うことが多かった。あと自分がほとんど積み本をしないということもあった。

 

・今はまあ、読みたい欲求はそこそこ出るようになったし、セール中にいくつかぱぱっと買ったほうがリーズナブルかも?という気がしないでもない。ただほしいと思った新刊は結局買ってしまうような気がするが。

 

・それより、図書館の紙本が読めなくなったのはつらい。いま体力がないからというのもある。

僕たちが何者でもなかった頃の話をしよう

・かんそー。対談の聞き手は永田和宏先生。京都大学名誉教授であり、歌人

 ★山中伸弥先生(iPS細胞・ノーベル生理学・医学賞

アメリカでは科学雑誌に論文を送るとすぐに掲載してもらえていたのに、日本からアメリカに送るとけんもほろろに酷評されて送り返されてくる。よく考えると、アメリカにいたときは、私の力ではなくて、私の後ろ盾となってくれていた高名な先生方のおかげで論文が通っていたわけです。

ほんとにこういうことあるんだなー。今はどうなんだろうか。
アメリカから帰国後、先生はかるくウツになってしまう。

ほとんど何のツテもない中で三十歳のときにアメリカに行ったこと。

予想と反対の結果が起こったときに、がっかりしてもおかしくなかったと思いますが、異様に興奮してワクワクしました。そのときに、「あ、自分は研究者に向いているんじゃないかな」と思いました。

たしかに、学生と一緒になって毎回喜んでいたら、たいへんなことになっちゃうから、われわれは学生が喜んでいても、「ちょっと待てや」って言わざるを得ないところはありますよね。(聞き手)

 予想外の結果にワクワクすること。だいじ。例えば自分はこういうつもりで書いたのに、受け手にはこう感じられてしまった。なにがズレたんだろう? 

アメリカでは、研究者はいつまでも研究者でいられるんです。でも、日本ではノーベル賞をもらってしまうと、ディスカッションの内容が日本の研究のあり方や予算の内容になってしまうことがままあって、研究者が経営者や政治家に変わっていくような感じがすることがあるんです。

この時間に、何をやったら正解というのは全然ないと思います。でも何もしないのだけはやめてほしいと思う。どんなことでもいいから、「あのときはこんなことに夢中になっていたな」というのがあったなら、それがうまく行こうが行くまいが、絶対自分自身の成長につながっていきます。どんな失敗をしてもいい。学生時代にやった失敗は絶対に無駄にならない。

羽生善治さん(将棋棋士

 その物差しには、長いものから短いものまであって、例えば、子どものときに竹馬に乗るために一週間練習して乗れるようになったとしたら、これは「一週間」という短い物差しを一つ身につけたということです。あるいは、英語がうまくなるために三年間勉強した経験があれば、それは「三年間」という長い物差しを身につけたと言えるでしょう。そのあと、もう一つ新しい語学を身につけようと思ったとき、英語では三年かかったのだから、最初の半年ぐらいは分からなくても当たり前だ、と割り切ることができます。

ほほー。確かに経営者とか、半年スパンとか3年スパンで考えられる人は尊敬する。それに慣れちゃってるからなんだな。 

私の場合は、サイエンティストでありながら、もう一つ文学の仕事をやっている。やりながら自分ではとても大きな葛藤があるんですね。サイエンスをやっていながら、それだけに集中しないで別のことをやっているとても居心地が悪いわけです。自分の中にもこの道一筋という美意識というか、美学があって自分は二股かけているんじゃないか、という後ろめたさが私の最大の敵だったんです。(聞き手)

長い時間、二つのことをやってきましたが、最近になってようやく、これでよかったんだと思えるようになってきました。それに、ある種の風通しのよさというものもありますね。でも、若い時にはしんどかった。今となってみれば、一つのことだけしか自分になかったとしたら、それがうまくいかなくなると全否定ということになってしまう。(聞き手)

 

たとえば子供の時に将棋をやっていて、駒を動かすのが楽しかった時期ってありますよね。そういう楽しさは捨てなければいけませんでした。それで将棋の奥深さのようなものは知ることになるんですけれども

 イチロー選手も似たようなことを言っていた。メジャー3000本安打のあと、(2016年)「子供のころみたいに楽しむことはできない。けど、自分のプレーで人を楽しませることが楽しい」的なことを。

ところが今はどんな職業でも、一人前になるまでこれぐらい年数がかかるとか、こういう待遇だとか、ちょっと調べればだいたいわかる。この道を選んだらこうなるというリスクまで簡単に想像できるので、それでかえって躊躇してしまうこともあるのかと思います。

よく羽生先生が話している、情報化社会のデメリット。将来の夢の予想が簡単についてしまう。効率やコスパを見極めようとして一生けんめいに調べると、動けなくなるかもしれない。アメリカにエイヤっと留学した、無計画に。