夢みる葦笛
「SFが読みたい! 2017年版」でベストSF2016国内篇第一位。
著者は2010年に発表した『華竜の宮』で第32回日本SF大賞、『SFが読みたい! 2011年版』国内篇第1位、2011年に第10回センス・オブ・ジェンダー賞。
・夢見る葦笛(異形コレクション 怪物團)
謎の音楽を流すイソギンチャクっぽい生物の話。
・眼神(異形コレクション 憑依)
田舎で人にとりつく神の話。
・完全なる脳髄(異形コレクション Fの肖像 フランケンシュタインの幻想たち)
生体脳と機械脳。合成人間<シンセティック・マン>=シムである私は、生体脳を体の中にとりこむことに拘泥していた。
・石繭(異形コレクション 物語のルミナリエ)
電柱の上にできる繭と、おいしい石の話。
・氷波(読楽 2012年5月号)
土星の衛星「ミマス」に設置された、観測用の人工知性。そこに、人格をもった観測機「タカユキ」が地球からやってくる。彼の人格の本体は、総合芸術家の広瀬であり、土星の環がつくる波の音を聞きたいと言うがーー。
・滑車の地(小説現代 2012年9月号)
泥海に覆われた惑星。海の上には高い塔が建てられ、塔と塔の移動は間に張られたロープを使う。大多数の人間は地下で生活しており、その生活から出された廃棄物が泥を形成している。泥の中には人間を食べる生物がいっぱい。語り手は整備士である三村。ある日、塔以外の人間の生息圏を探そうとする飛行コンテストに、少女リーアが応募してくる。彼女は地下の生物(獣?)であり、人間ではなく、リーアというのも生物名だった。
・プテロス(書き下ろし)
太陽系外の惑星。飛翔体(虫?)である「プテロス」にとりついて、生物学の研究を行う「僕」とAIのルーガ。
・楽園(パラディスス)(SF JACK):とつぜんの彼女の訃報。世間では、故人のブログデータや会話データをもとに、仮想キャラクターをつくるのが流行していて……。
・上海フランス租界祁斉路三二〇号(SF宝石) :歴史修正もの。
・アステロイド・ツリーの彼方へ(SF宝石2015):
宇宙探査機と神経接続し、彗星についた微生物を分析する分析屋の僕。ある日、人工知性体である猫型AI「バニラ」との共生を命じられる。様々なことに興味を示すバニラの正体とは。
※ネタバレ
・夢見る葦笛:ガン幹細胞。イソアの細胞を人間に植えつけると、人体の溶解と再構築が始まり、人はイソアに変わる。
・眼神:憑きもの。もともと貧富の差、不公平感を埋めるもの。神様。病気はつきもののおかげ、裕福なのもつきもののおかげ。
・完全なる脳髄:生体脳と機械脳。地球規模での気象変動により、世界的な食糧危機期→難民と政府の衝突。無人機械で難民を殺すことに。分子機械、ナノサイズの生物兵器が日本に来て、妊婦をねらう。胎児の体の発達には、セレブロンというたんぱく質が関与している。酵素複合体ユビキチンリガーゼの一部。この分子機械により、胎児が発達異常を起こした。(この発達異常の発生率は、まだ30%くらい)。
研究の結果、細胞組織の成長を誘導すると人間の腕や足が形成されることに。さらに伸ばせば、小さな「生体脳」が発達した。そこに機械脳を接続して活動を制御すればよい。そうしてできたのがシム。シムは普通人(ナトウラ)を殺してはならない。生体脳が小さいため、シンプルな思考しかできないらしい。シムの思考は、生体脳が拾い上げるボトムアップ情報を、機械脳がトップダウンで管理している。
だが、いま私の頭のなかには、それぞれに意見の違う人間が何人もいて、一斉にがなり立ててるかのようだった。価値観が揺さぶられ、判断が揺さぶられ、永遠に迷い続けるのではないかと思うほどだった。
これが本物の人間になるということなのか。真反対の考えを同時に思考し、その中からひとつだけを選び取り、選び取ったらそれに対する後悔など決して持たないーー。それが人間になった証拠なのだろうか。
・氷波 p108 p120 p128
「人生の長さが倍になったら価値観も変わりますね」 ヒトマイクロバイオム計画。ヒトという生物のシステムを、薬物や分子機械ではなく、微生物を使って変容させる研究。
・滑車の地(小説現代 2012年9月号)
・プテロス(書き下ろし)
・楽園(パラディスス)(SF JACK) p217
・上海フランス租界祁斉路三二〇号(SF宝石) :歴史修正もの。
・アステロイド・ツリーの彼方へ(SF宝石2015):p288、p300、p303、p305、p313、p320
バニラの本体は別にあり、その正体は、実際の生身の生体組織をもった人工知性体だった。ただその生体組織は人間の形をしておらず、ばらばらの状態である。バニラはAIでありながら「自分の体の感覚」を持っていた。