まほうのことば

小説の新人賞などに応募しています。本の話や創作の反省。黒田なぎさ

新訳 赤毛のアン

 

新訳 赤毛のアン〈上〉完全版 (角川つばさ文庫)

新訳 赤毛のアン〈上〉完全版 (角川つばさ文庫)

 
赤毛のアン (新装版) (講談社青い鳥文庫)

赤毛のアン (新装版) (講談社青い鳥文庫)

 
赤毛のアン (10歳までに読みたい世界名作)

赤毛のアン (10歳までに読みたい世界名作)

 

 初読。自分が読んだのは一番上の、河合先生訳のもの。決してイラストにつられたわけではない……。先生の訳で読みたかったの。初出は1908年のカナダ。
 河合先生の訳は『不思議の国のアリス』で感動していた。おそらく有名な村岡花子先生の訳よりは、アンがかなり幼いのだと思う。あと男性が『赤毛のアン』を訳したということで、だいぶアンのエキセントリックなところがやわらかくなったらしい。要するにかわいくなった。どの訳で読むかどうかは、アンがかわいいかどうかで決めていい気がする。(全体の3分の1くらいアンのセリフだし……)


 それにしてもおそるべきアンのマシンガントーク。1900年の本なのにキャラが濃すぎる、赤毛をイジったら爆発する特性を持つ。これもアンの話し方を現代風にしたからかな。両開きページの端から端までセリフとかがある。完全ノーカットだからか、最初のページは風景描写でとっつきにくいものの、アンが出てきた瞬間から本番開始。
 後半、同級生とかが出てくるので、ますますアンの変人?ぶりが目立つ。とりあえず親友のダイアナとけんかするシーンがなくてよかった。それどころか愛の誓い(?)を立てるところまであり、(これは女の子特有なのか……)、ダイアナが将来、ほかのひとと結婚したらどうしようと言い出す始末。この現象は万国共通なんですかね……。

 あらすじ

独身のマリラとその兄マシューは、孤児院から男の子を養子に迎えることに決める。だが約束の日、駅に降りたのは、アン・シャーリーという11歳の赤毛の女の子だった。マリラはアンを送り返そうとするが、明るくおしゃべりなアンに心を動かされ彼女を引き取る。

アンは、同い年のダイアナと親友になり、地元の学校に編入。そこでギルバートに髪の色をからかわれ、石盤を彼の頭に打ちおろすという騒動をおこす。アンは学校をやめ、留守番をしている間にダイアナをお茶会に招待するが、ラズベリー水と間違えてスグリ酒を飲ませてしまう。ダイアナの母親は激怒してアンと娘を絶交させる。失意のアンは登校を再開し、勉強にうちこむ。

 村岡花子先生訳

「お目にかかれて、とてもうれしいわ。もう、迎えにきてくださらないのじゃないかと、心配になってきたもんで、どんなことが起こったのかしらって、いろいろ想像していたところだったのよ。もし今夜いらしてくださらなかったら、線路をおりて行って、あのまがり角のところの、あの大きな桜の木にのぼって、一晩暮らそうかと思ってたんです。

 河合先生訳

「お会いできて、とてもうれしいです。おむかえにきてくださらないんじゃないかと思いはじめて、いらっしゃれなくなった理由をあれこれ想像していたんです。今日いらしていただけなかったら、線路を歩いていって、あのまがり角のところの大きな桜の木にのぼって、ひと晩明かそうと思っていました。

初めましてなのに、徐々にしみでるマシンガントーク。河合先生のセリフテンポ。

あたし、かわいいものが好きなの。 かがみを見て、かわいくないものが見えるのは、いや。すごく悲しくなるわ。なにかみにくいものを見るときと同じ気持ちになるの。美しくないのをかわいそうに思うんだわ。」

アンはさっそく思うぞんぶん花を使ってずっしりとなった花輪でぼうしをかざったのです。 ほかの人にどう思われようと、アンはこれで満足して、 陽気に道をスキップして行きました。赤い頭にピンクと黄色のかざりつけをして、 得意満面だったのです。

 服がかわいくないとテンションが下がる、というのはよくわかる……。かわいくなければ幸せじゃない、ということか……。

 

 海外の児童文学だと、たまに地の文の情景描写にハッとさせられることがある。日本語ではよくつかわない言葉だからか、表現が意外と直球(ロマンチック)でもおかしくないからか。

少女は、やせた肩にかかった長いつやつやしたおさげのいっぽうをねじって、マシューの目の前につきつけました。(中略) 少女は、ぽいとおさげをうしろにほうると、つま先からこみあげてくるようなため息をつきました。

アンは口ごもりました。敏感に反応をしめす小さな顔がふいにまっ赤になって、まゆは、こまったようすになりました。 

 アンの神様へのおいのり(自己流)。

「いちばん大切なことをふたつだけ言います。どうぞ、あたしをグリーン・ゲイブルズにいられるようにしてください。それから、あたしが大きくなったら美人にしてください。それでは、お元気で。あらあらかしこ。アン・シャーリー。」

アンのしあわせのさかずきはなみなみといっぱいになっていましたが、マシューがそれをあふれさせました

 しかし角川つばさ文庫は『アンの青春』までしか出してなくて、アンシリーズはまだまだその先があるらしい。いったいどこまで読めば『赤毛のアン』を読んだと言えるのか……。

 アンのダイアナへの告白(?)。

 「ダイアナのことが大好きなの、マリラ。あの子がいないと生きていけないわ。でも、大きくなったら、ダイアナは結婚して、遠くへ行って、あたしから離れていってしまうでしょ。(中略) でも、顔はほほえんでいても、心ははりさけそうなの。そして、ダイアナに、さよならを言うんだわ──さよう……なぁ……らぁぁぁ。」