まほうのことば

小説の新人賞などに応募しています。本の話や創作の反省。黒田なぎさ

献灯使

 

献灯使 (講談社文庫)

献灯使 (講談社文庫)

 

 全米図書賞(翻訳文学部門)受賞。初出は2014年8月。あらすじ:大災厄に見舞われ、外来語も自動車もインターネットもなくなり鎖国状態の日本。老人は百歳を過ぎても健康だが子どもは学校に通う体力もない。義郎は身体が弱い曾孫の無名が心配でならない。

 収録作品は表題作、『韋駄天どこまでも』『不死の島』『彼岸』『動物たちのバベル』
 SF小説として読んで、いろいろなSF要素がぎっしりだった。おそらく作者としては違うのかもしれないが。老人は死を奪われ、ほぼ不老不死となり、長寿を祝うことがなくなり、子どもの体は弱くなった近未来。荒んだ東京で暮らすじいちゃんと曾孫の無名くんの物語。

 

死んだ百万台の洗濯機たちは太平洋の底に沈んで、魚たちのカプセルホテルになっている。

東京23区全体が「長く住んでいると複合的な危険にさらされる地区」に指定され、

敬老の日」と「こどもの日」は名前が変わって、「老人がんばれの日」と「子供に謝る日」になり、「体育の日」はからだがおもうように育たない子供が悲しまないように「からだの日」になり、「勤労感謝の日」は働きたくても働けない若い人たちを傷つけないように「生きているだけでいいよの日」になった。

インターネットがなくなった日を祝う「御婦裸淫の日」(オフライン?)

農作物が海外から輸入されることがなくなってからは、オレンジもパイナップルもバナナも沖縄からしか送られて来ない。蜜柑は四国でどっさり収穫されているらしいが、東京まではなかなか回ってこない。四国は農作物はほとんど自分たちで食べてしまう政策をとっていて、そのかわり、讃岐うどんの作り方、ドイツパンの焼き方などを特許化して稼いている。

沖縄と違って北海道は移民を受け入れない政策をとっている。

沖縄の農場で働きたい人は夫婦で申請しなければ採用されないことになった。

高価な果物はほとんど東北、北海道に流れてしまい、東京に回ってくるのはごく一部だった。北部からは見返りとして米と鮭が大量に沖縄に送られてくる。

町中に電気が流れ、俗に言うビリビリ病で手足がしびれて

神経がやられ、夜眠れない人たちが増えたころから

小学校に行っても両親に育てられている子がクラスに一人もいないせいか、両親のことがほとんど話題にならない。

両親のいない子供を「独立児童」という。

「ママ」「トイレ」「迷惑」「すみません」「アリガトウ」という言葉は死語らしい。

 

★『韋駄天どこまでも』

・ことばあそびのような。

・すばらしい表現がいくつもあるが、倣って使うとすぐばれそうではある。

てんちゃんは全然エキセントリックなところのない女性だと思っていたら、全然がついて燃え出し、舌がになった。二人は舌の炎でフェンシングを始めた。そのうち舌はもつれあい、口の中に見え隠れし、二人は貪欲になってきて、夢中で相手の唇を食べてしまおうとした。お互いの口の中が宇宙で外の世界はその宇宙の大きすぎるミニチュアに過ぎないんだという気がしてきた。