まほうのことば

小説の新人賞などに応募しています。本の話や創作の反省。黒田なぎさ

惑星最後の住人

・まだまだSF大賞祭り

 

チグリスとユーフラテス

チグリスとユーフラテス

 

 ・SF界の大御所、新井先生のSF大賞受賞作。500ページ。1999年。
 地球から移住した惑星ナインの住人たちは子どもを生むことができず、絶滅の危機を迎えていた。『最後の子ども』のルナが生まれた後、コールドスリープから目覚めた人たちの記録。久しぶりにすごいなぁと思った本。ちょいネタバレ。

 軽快な文章とホワンとした表紙と対称的に、中は結構エグいテーマ。(タイトルは合ってるような合ってないような)SFってそんなものかもしれない。このあいだ映画化された『火星の人(オデッセイ)』を思い出した。惑星でひとり生きる感じ。最初はあまり読むのが進まなかった。

 

★あらすじ: 『最後の子ども』である老婆のルナしか存在していない惑星ナイン。そこでコールドスリープしていた人たちが入れ替わりに目覚め、その人たちが手記(と回想)を残していく。最初のマリアは宇宙歴300年生まれ、つぎのダイアナは200年生まれで、惑星ナインの歴史がだんだん明かされていくというしくみ。(コールドスリープのそれぞれの理由は、不治の病にかかり、未来の医療技術に期待したからで、大体の人は目覚めてから数か月後に死ぬ。)最後は地球からの移住者であり伝説の女神である、レイディ・アカリ(穂高灯)がめざめる。

 

 

1章「マリア・D」:マリアがコールドスリープから目覚めると、そこには「最後の子ども」である80歳のルナがいた。マリアが生きていた宇宙歴300年ごろには、惑星ナインの住民は子供を産むことができず、人口減少の一途をたどっていた。マリアは妊娠することができる「超特権階級」の生まれで、出産するために生まれてきたようなものだったが、致死性の病気にかかり、出産が不可能になってしまう。マリアとは対称的に、つぎつぎと子どもを妊娠する幼なじみのイヴ。嫉妬するマリア。とうとうイヴは、孤独を宿命づけられた最後の子、ルナを出産する。テーマは「妊娠と出産」。

 

2章「ダイアナ・B・ナイン」:宇宙歴200年ごろの住人であり、宇宙管理局の職員。ドまじめな女性。目覚めてからマリアの手記を読んだダイアナは愕然とする。宇宙歴200年ごろは急激な人口爆発と食糧危機により、ダイアナは人口減少策を推し進めていた。終盤、ダイアナは『最後の子ども』であるルナの正体に気づく。「食料危機と口減らし」。

 

3章「関口朋美」:宇宙歴100年ごろの住人。地球から移住してきた伝説の人たちの直系の子孫で、純血であり超特権階級、苗字もち。絵を描くことが好きな画家だったが、特権階級のヒイキによって生活できていた。「人類が絶滅した今日、芸術に意味はあったのか。絵を描くことに意味はあるのか?」。朋美は最後にルナにあることを託す。

4章「レイディ・アカリ」:地球から移住してきた伝説の日本人であり始祖。(中はふつうの日本人)。キャプテン・リュウイチの妻。当時、地球から惑星ナインまでは航行に30年かかり、まさに命を懸けた移住だった。この章だけで250ページもある。前半は宇宙飛行士リュウイチとのラブロマンス、後半は『最後の住人』ルナとの生活。共に80歳を超えているアカリとルナの最後は。惑星ナインは滅びてしまうのか? テーマは「人は何のために生きるのか」。

 

★ きになったところ:

・最初は夢の思いつきから始まったが、何回もプロットを練り直したらしい。で500ページ。まさにSFという感じだが、SF好きの人たちは常にこんなこと考えてるのかな……。

・キャプテン・リュウイチとか「最初の住人」の12の苗字たちとか、和名なのにかっこええ……なんでだろう。これはアレかな。異世界で「カタナ・ブレード」がかっこよく見えるやつかな

・惑星ナインだが地球の暦を使っているので、年の初めの月が毎年ちがったり、年末の月が2日しかなかったりする。楽しい

・惑星ナインの子どもたちはなぜか神の名前をどんどん取っている。アダム、イヴ、イザナギetc。(全員日本人なのだけど)。人口減少しているときはほとんどの赤ん坊の名前がアダムとイヴだったとか。出産することに記者会見が開かれ、3兄弟が生まれたときはパレードが開かれた。

・男性が生まれてくる率が高いが、なぜか乳児死亡率も男性が高い。

・地球の生活とのズレ。男女共働きなんてシンジラレナイ。絶望。

・マリアの破天荒ぶりがすごい。夫ゼウス涙目。

・Gを食べてしまうダイアナ。ここらへんは三人称で書かれているが、特徴的すぎる……一人称でもいいのに。ダイアナのまじめな報告書がかわいい。こういうの書けるのすごい

・ルナの無知ぶり。いや、無知なのかどうなのかよくわからない。常識とのズレはすごい。生まれてからほとんど「子ども」として扱われた、惑星最後の末っ子。どこまでが本気なのかわからないが。

・人工子宮。名字の存在。ナインでは名字がある人が特権階級を持つ。武士みたいだ

・ルナは憎しみと絶望と悲しみで生きている

・新出単語:あたら、ことほぐべき、うべなわない。