まほうのことば

小説の新人賞などに応募しています。本の話や創作の反省。黒田なぎさ

新・観光立国論【追記】

・なんだか調子が悪い。

と思ったら、インプットが多すぎて、アウトプットが追いついてないのではないかと思った。よく多読をするには読書を同時進行せよと言いますが、私の場合、読んだら書くなりして吐き出さないと苦しいので、同時進行するといつまでたっても吐き出せない。きびしい。

   

・2015年6月刊行。「山本七平賞」「不動産協会賞」受賞。
著者は日本に住んで25年のイギリス人、元ゴールドマン・サックスのアナリスト。今は日本の重要文化財を修復する会社の社長。経歴を生かした論理的な分析と観光の提案、あと日本人より日本を知っている男(とくに日本人が「外国人に何を言われたら怒るか」というのを熟知しているようで、作中でキビシイ指摘をしているがフォローがかなりうまい)

・私が中学生のころは、社会科の先生が「日本の輸出のなかで観光収入は全然だめ」と言っていたけど、本当にダメだった。ここ最近はかなり持ち直してきたけど、著者に言わせればまだまだらしい。こうなった理由は、いままで製造業などを重視してきたからではないか。あとやっぱり日本語と英語の壁と、サービス業を下に見ている文化。

・日本は一人当たりのGDPが最低クラスだし、近いうちにまず間違いなく人口1億人を切るので、観光客を呼んでお金を落としてもらうのが早い。移民よりは楽。

観光産業が上向いてきた 同じ著者が書いた記事

toyokeizai.net

訪日外国人旅行者数は836万人から約2倍の1974万人に、訪日外国人旅行消費額は1兆846億円から約3倍の3兆4771億円に――観光政策は、「アベノミクス最大の成果」と言っても過言ではないだろう。

安倍首相が掲げた目標は2020年に4000万人、2030年に6000万人。私の予想をやや下回りましたが、極めて実現可能な数字だと思いました。

このような発想の転換も、日本の観光行政が次のフェーズに変化していて、どんどんレベルアップしている証拠です。それが出てきたということは、いよいよ日本という国が「観光で稼ぐ」ことに対して本気になってきたのではないかと大いに期待できるのです。

2016年3月に政府が示した目標に満足のようで、うれしい。やっぱりうまくいってる政策を見るといいぜ。というかこのデービッド氏は政府の観光会議のアドバイザー的なことをしたらしい。よかった。

◆観光でだいじなこと

・観光国には「気候・食事・文化・自然」がそろってると良い。フランスは全部そろってるけどイギリスは気候がよくないし食事もだめだしビーチもない。日本は全部そろっているのになぜかフランスの4分の1くらいしか稼げてない。(イギリスの3分の1)しかも日本は人口1億人超の先進国なのにこれはおかしい。

・上記にもあるけど、日本人が好きな「おもてなし」はサービス側が押し付けるものではない。世界には200か国あるので、それぞれの人のニーズをあらかじめ把握するのは不可能に近い。それより目の前の客のサービスにその場その場で応え、満足度を高める。お箸を使いたいイギリス人もいるし、スシや刺身を自由に食べたい人もいる。(なぜ、あの愛想が悪いと言われるフランスが観光立国なのか。笑った)

(・日本のサービス対象はだいたい日本人なので、だいたいのニーズはわかるしマナーや常識がほぼ同じだった。「郷に入っては郷に従え」は「現地の文化に従った方が軋轢がないよ」ということで、入る人が言うべきもので、もてなすホスト側が言ってはいけない。観光は文化のちがう人が交流するものなのだから、マナーや常識がずれるのはふつう)

◆具体的にどうすればいいか

・後半は具体的にどうすればいいかアドバイス。料金は幅をもたせ、VIP料金を払えば行列をすっとばしていいようにする。富裕層、一般の人、もっとこまなく、飛行機のビジネスクラスとかみたいに段階別に分けよう。

・もっとガイドや展示案内、パネルを増やそう。文化財には『解説』を増やそう。知りたい人はお金を払ってでも知りたい。日本の文化財はあまりにも解説がなさすぎる。音声ガイド、ぶあついガイドブック、英語、中国語、フランス語多国語対応。たぶんこれは「ありのまま」を見てほしいとかの気もちがあるんかな……。旅行者からはちゃんと料金を取り、文化財の修復・発展に使いなさい。これもね。ベルサイユ宮殿を貸し切れるとは知らなかった。宮殿でパーティーしてみたい。

・お金を落としてもらうには滞在してもらわないといけない。観光地に1日いてもらうには、1日まわるぶんだけの夢中になれるツアーと、食事、ホテル、買い物するところが必要。さらにリピーターになってもらうには、ひとつのいいところでなくもっともっと増やすこと。

・これは上記の記事にもありますが、最近政府がかなり本腰をあげて対策をしているようで、この政府の動きがなければ絶望してるくらい、本書にはきびしい指摘が多かった(出版は2015年)。政府が動いてくれてほんとによかったね。この本を読んだだけでは絶望しかない。

・イギリスのことわざ

"石や枝を投げられたら骨がおれるかもしれないけれど、言葉にはその力はない"

イギリスでは議論での攻撃というのは、あくまでもその意見に対する攻撃であって、個人に対する攻撃として受け止めてはならないという文化が、社会全体に浸透しています。(中略)議論に感情を挟むことは許されない、とにかく冷静に

イギリスの議論の文化。まあ言葉でも精神が死にかけるときはあると思うけど、意見と感情を切り離すということ。これは日本ではまあ、受け手の方はこれを考えるといいかもしれない。意見を言う側が「あなたのこと嫌いじゃないが意見するぞ」というと逃げられてしまうかもしれないから。

 

・ほか気になったところ

マーケティングはセグメンテーションする。出身国はなにで、男女、年齢別、所得別で観光したいものがちがうので、どんどん分けること

・オーストラリアでは、「半年で1000万円あげるのでオーストラリアに来て、毎日観光してブログで発表すること」を募集したらしい。募集は殺到、経済効果はてきめん。

・観光における「コンテンツ」、商品名は何かを洗い出し、誰に、いつ、いくらで売るのか、どのようなルートで発信するのか