感想交換会をやってみた感想とこれから
・SF講座の感想会を6回実施してみて、考えたこととこれから。
・7月からの6回で、1回でも参加された方が24名。(聴講生含む)
通算参加人数が61名、参加表明人数(欠席者、日程合わず)を含めると84名。
① なにやってるの
・2018年の途中から、篠田さんという方がはじめられ、だいたい〆切(木曜日)の週末の土日祝いずれかで開催、1作品30分の講評会。はじめに作者から要望などをコメントして、あとはフリートーク。以前は読書会形式で参加者ひとりずつ講評していったが、参加者多数のため今はフリー。だいたい7時間くらいかかっている。
② 双方向性
ラジオやブログ感想にない利点として、作者がその場にいるので対話的な講評ができる。読み手も作者に質問できるし、作者側も気になるところを読み手に聞ける。『ここがよくわからなかった』→「このつもりで書いた」→「その場合はこうするといい」ような。たまに作者の執筆歴や読書歴を聞いているが、要するに作者のレベルに合わせた講評ができる。
③ 3人寄れば
なんとやら。10人寄れば、仕事も読書歴もちがう老若男女が集まって色々わかる。特に前回の『取材をしてお話を書こう』では、専門的なテーマの作品もあったが、たまたま講評会に専門家がいたりする。音楽がテーマの『Punk Punk Punk』は、音楽を知っている人がかなりいて助かったと思う。
ほかにも聞けることは、自作と似た傾向の商業作品、自分のスタイルと似ている作家、もし自作を送る場合はどの公募がいいか、などがある。まずは自分で調べるのが基本だが、ググっても見つからないときもある。
またどなたかも言っていたが、講座より数日前に改善点やアドバイスが聞けるのでラッキー、という人もいる。当然だが、ほとんど講座とSF関連の著作とイベントの話ばかりしているので、単純に情報交換の場として役立ててもらえばいい。(最近は最終実作の話が多い)
④ 作品講評からスタイル講評
これから小説を初めて書く、という参加者も来られるので、そういう方にはまずは5,000 - 7,000字の作品を書いてみてはどうかと言うようにしている。幹事もまじめに小説の勉強をしてきたわけではなく、カルチャースクールにも通った経験がないので、指導方法が合っているかはわからない。(なので結局いま勉強している)。途中から新規参加している方の過去の梗概はだいたい目を通して今後の方針など言っているつもりだが、時間がなくてしんどいときもある。つまり、「作品講評」だけではどうしようもないときがある。
幹事は大賞をとったことがないので大賞のアドバイスはできないが、他の参加者もどんどん梗概選出の常連になってきたので、そういうアドバイスはできると思う。
⑤ そこに作者がいることで
最近は30分、作品講評じゃなくて、その作者が自由に使えるお悩み相談コーナーのように捉えている。皆に『執筆の仕方』『執筆時間のつくりかた』を聞いてもいい。『梗概選出されたいんだけどどうすればいい。俺の弱点を教えてくれ』と叫んだっていい。飲み会ではなかなかできないかもしれないが、ここではガツガツした発言をしてもいい。期待した答えが返ってくるかはわからないが、とりあえず答えられることは答えると思う。
講評が目当てじゃなくて、いつもはあまり他の人の作品が読めないから、とにかく読むために参加するでもいい。
★ 改善点
① いまのところは作品講評が中心なので、「今月の中でどれが一番良い梗概か?」などはあまり議論できていない。(おそらくほとんどの参加者が全部読めてないと思うが……)。そういうのは講評会の二次会ででもやっていると思う。
② 講評会の評判と講義の評価がズレることはよくある。とくに梗概は良いも悪いもよく外れる。ただなるべく良いところやケアするべきところを言って、選ばれなくても自主提出で役に立てるようにしたい。
③ ネットでなくリアル環境で行っているので、いくら濃密にやっても、積極的にwebで宣伝しないと、秘密の同人会になる。なので、参加者はブログに感想記事でも書いて頂けると大変助かる。(個人名まで書かれると困るが)。幹事もことあるごとに主任講師に宣伝している。だいたい笑われてる。
いまはツイキャスで生放送もしているが、動画編集までやると負担が大きい。高性能の音声認識でぱぱっと議事録がつくりたいが、多人数会話だと難しいかもしれない。(音声認識の研究室だった)。
★ これから
① 幹事は、他の感想会にバリバリ出席していたわけでもないので、文芸サークル等に入っていた方は、感想会で「こんなこともやってる」等あればご提案頂けると助かる。あまり参加者の負担になるような活動はむずかしいけれど。
② 基本的に毎年あつまって毎年解散しているコミュニティなので、来期以降もなにか続けられればと思っている。同人アンソロくらいしか思いつかないが。参加者それぞれの未来に集中するという手もある。(自分が良い成績を残さないと来年も残ることになりそう)
③ 受講生の中には、皆で何かするのは肌に合わないという方もいるし、強制はしていない。もともと別のサークルやコミュニティに属している方には必要がないと思うし、無理に参加する必要はない。(この講座では、はじめてTwitterアカウントを作った人までいるので、そういう人のためと思っている)。むしろ大賞レースにはあまり影響がなく、どちらかというと持続するためという感じである。本当の講評は、主任講師にどんどん聞きに行ったほうがいい。(もともと上手い人は、自分一人で上手くなれる環境が整っている)。
小説講座の中には、「受講生同士の感想交換禁止」のところもある。理由は色々あるが、まちがった指導をするから、というところもある。幹事もいままで間違った講評をたびたびしてきたと思うが、とりあえず参加者が受講継続したくなくなるような講評はしないようにしたい。(甘口になればいいというわけではないかもしれないが)
幹事は過去に「講座に行くのが嫌でしょうがない」ときもあったし、そういうときに、知らない人だらけのところに行くより多少顔を知ってるところに行くほうがいいと思う。またこの講座で途中で挫折する人もたくさん見てきたので、とりあえず続けられるようなセーフティをかけるためでもある。
梗概 アイデア
近未来、ヒューマノイドが人権を少しずつ獲得し、人口の数%を超えるようになった時代。
ナシータとルチルは女性のヒューマノイドで、ロボット専門のウェディングプランナーだった。
近未来、ヒューマノイドが人権を少しずつ獲得し、人口の数%を超えるようになった時代。
ナシータとルチルは女性のヒューマノイドで、ロボット専門のウェディングプランナーだった。ふたりは去年、所長のナシータが社員ルチルの告白を受け、近々結婚の予定だった。
この時代のヒューマノイドは、人間とほぼ同じ見た目をしていた。両者の幾度かの紛争のあと、ロボットは人間との摩擦を抑えるため、過度な進化を控えていた。人と同じものを食べ、老化し、寿命で機能停止するプログラムを搭載していた。
しかし、ロボットの電脳はネット上に存在する超AI、Iris<イーリス>とつねに通信し、生活に必要なあらゆるデータはそこから得ていた。Irisがなければメディカルチェックも行われず、ロボット同士の通信にも制限がかかった。
ヒューマノイドが夫婦となる儀式には、古くから信じられている迷信が存在した。Irisを通じたカップル同士の接続や、データの共有が深いほど長続きすると言われていた。常に信号を飛ばしあうカップル、感情や思考を共有する夫婦、ふたりの記憶を完全に統合するものまでいた。
所長のナシータは離婚経験があり、理由は自分のワーカーホリックだった。ルチルには愛情を持っているものの、いまひとつ結婚に踏み切れない。それはナシータが、お客の幸せを第一に考えているからであり、自分のことは二の次になりがちだったからである。ナシータはIrisを通じて、ルチルと仕事上の通信は行うものの、プライベートでの通信は控えていた。
そんななか、ひとりのクライアントがやってくる。それはナシータの元パートナーである女性、セシルだった。彼女は記憶を消してモデルチェンジをしており、少年のような姿になっていた。彼女はナシータのことを一切覚えていなかった。セシルは数年前に亡くなったパートナーのメモリを持ち込み、メモリから再現したグラフィックとの結婚を希望していた。
ナシータは彼女に未練はなかったものの、結婚前でナーバスになっていたメンタルが不安定になる。さらに、昔、解除したと思っていたセシルとの感情共有が入り、余計にナシータはざわついた。ルチルはそれを見て嫉妬し、ナシータと共有を深めたいと思う。
ナシータは迷いながらもセシルらの結婚式をすませる。セシルは死んだパートナーと記憶を共有し、精神不安定になりながらも幸せそうだった。
その夜、セシルを見届けたふたりは、Irisを通じた共有を始める。メモリ、感情、五感のすべてを共有した。完全に一体となったとき、ふたりは満ち足りた夜を迎えた。しかし、知り尽くしてしまったという虚無感と、理由のない強烈な寂しさを感じた。それはお互いの動きが100%予想でき、これからどんな感情になるか、何もかもが理解しあえた状態だった。
ふたりは自然な成り行きで、ひとつひとつの共有を切断していき、Irisとの接続も断ち切ってしまった。朝目覚めると、無線は使えず、データは流れてこず、お互いの存在が全くつかめない。ただ視覚で相手の姿を捕らえたとき、なぜか相手をとても愛しく感じた。ふたりはIrisから独立し、お互いを支えあうことを結婚とした。
私たちはなぜ性別をもつのか。
男と女。私たちにとっては相性がいい。プラスとマイナス。0と1。
なぜ人間が生まれてくるのかわからないように。
ぺたぺた。
今年読んだもの
1074-889
951 - 889 = 62
1074 - 951 = 123
・185*60 ・185日、半分か……。
・去年はいくらだったか。
映画、マンガを合わせると148くらい。本だけだと128*60頁 = 72480頁(7680)
・2016年(書いた200枚。読む:10,000頁(35冊ほど)) 156*60
・2017年(読んだ本は40冊前後、映画は17本、アニメ1クール、ドラマ1クール) 189*60
・2018年(書いた60,000字くらい。60,000 * 1.2 /400 = 180枚。読んだ本は23冊前後。映画9本くらい)128*60
・2019年(書いたもの )185*60
1074-889
951 - 889 = 62*60 =3720
1074 - 951 = 123*70 = 8610 3720+8610 =12,330 → 12330/300 = 40冊くらい?
・書いたもの:34,000字 → 102枚
・減ったなあ。だめかもしれないね。まあこれからがんばる、でいいのかな。
・もうちょい上げられないか。
・でも書くんでしょ。
・いまのところ、少ないね。
・
・なぜ前回だめだったのか?
・うーん。梗概はブースト?かけたのだと思うのだけど、けっこうつらかったのかもしれない。わからない。うーんけっこうきつかった。もしかして今までのもあれだったのか? もうちょっとがんばろう。
・つぎの梗概は、もう少しがんばろうと思う。ただファーストコンタクトのお題が難しい。正直しんどい。あんまりがんばらないほうがいいかもしれない。
・なぜか今回、取材にそうとう引っ張られたし、すごくやりにくかった。常に取材をしなきゃ、という頭があって、とてもつらかった。もっと自由にしたかった。普段からすでに取材過多なのに、もっと読まなきゃと思ってしまい、厳しい。ただ、取材過多?というのはよくわからない。もっと自由に書きたかった……。
・参考にするもの?特にない。なぜか。調べものが遅いのか、想像で書くべきものが少なすぎるのか、もっとファンタジー系にすればいいのか、よくわからない。とてとてに遅い。
・もう少しがんばったらどうなのかな? わからない。ただ、けっこうすこなの。
・
第7回講義
・某ポータルサイト
・テーマを
・建築:ポストモダン
→思想、鉄筋コンクリート
→ モダニズム建築
→AR,めちゃくちゃになるのではないか。→ぜんぶホログラムになるのでは
→安息角 →塩と砂糖。 持った時の角度が決まっている
→垂直に近い、建築技法
→上空からばらまいた、建築技法。絵として面白い。そっちのがおもしろくないか。
。
→ARうんぬんよりも、してもいいかな。
→8000字くらい。
→技法。おもしろさ。サイコパス。
→めちゃくちゃな建築。→積み木でつくった。
→ 書き起こし
→ グレアムグリーン
→意識は
・祈りたい。無理。
・
・意識はクラウドにあるのか?
・生きてる? ライブシーンをどこまで書けるか?
・大丈夫?
・明日だいじょうぶ?
・わからない。
・コピーとオリジナルとの比較。
・もう少し、読まないといけない。
第4期 第6回感想交換会
・第4期、感想交換会の第6回。
左下にクロミ様(撮影用)が見切れている
日時:12/22(日)13:00 - 19:45
場所: 渋谷区 、1350円
参加者:9名、(予定13名)
対象作品:梗概9、実作3(予定15くらい)
年末年始。とても忙しい時期になり、風邪も増えて欠席者増。それでもなんとかまとまって良かった。初参加の方が2名。
また電源タップがない。まいった。持ってくるのを忘れた。
幹事は完全に徹夜であり、仮眠を1時間くらい取ってからスタート。きびしい。自分の改稿と、読むのにものすごく体力が必要だった。金・土曜日がとても忙しい。まあ〆切前にがんばっておきなさいということなのだが。
次の〆切まであと2週間弱ということで、どれだけ梗概からスリムにするか、簡単にブラッシュアップできるかがテーマ。
★ 感想会中に考えたこと
・お客さんの手を見る手相占いと、宇宙人は相性がいい。
~太陽系外惑星のどこかにある手相占い店~
『あなたの手を見せてもらえますか』
『はい(触手)』
ぷにぷに。
・得意分野、占いをまぜる手法ということで、対話システムとの混合。できれば得意技はSFのサブジャンルや小説のジャンルのほうが良かったかもしれないが。(使いまわしができるので)
もし目標が梗概選出なら、あと3回の講義をぜんぶ占い系で攻めても良いと思う。手相占い×スペースオペラ、もありだし、また対話システムやヒューマノイドを使っても良い。ただその場合は、片方のSFの勉強が大変なので、そこは工夫する必要がある。それか、時代も現代、舞台も学校などにして、ちょっと変な占いが学校で流行る、くらいでもいいかもしれない。(コックリさんホラーみたいだが)。
★ 自作梗概の修正版
『メカニカル・プランナー』
↑ の修正版。
近未来、ヒューマノイドが人権を少しずつ獲得し、人口の数%を超えるようになった時代。
ナシータとルチルは女性のヒューマノイドで、ロボット専門のウェディングプランナーだった。ふたりは去年、所長のナシータが社員ルチルの告白を受け、近々結婚の予定だった。
この時代のヒューマノイドは、人間とほぼ同じ見た目をしていた。両者の幾度かの紛争のあと、ロボットは人間との摩擦を抑えるため、過度な進化を控えていた。人と同じものを食べ、老化し、寿命で機能停止するプログラムを搭載していた。
しかし、ロボットの電脳はネット上に存在する超AI、Iris<イーリス>とつねに通信し、生活に必要なあらゆるデータはそこから得ていた。Irisがなければメディカルチェックも行われず、ロボット同士の通信にも制限がかかった。
ヒューマノイドが夫婦となる儀式には、古くから信じられている迷信が存在した。Irisを通じたカップル同士の接続や、データの共有が深いほど長続きすると言われていた。常に信号を飛ばしあうカップル、感情や思考を共有する夫婦、ふたりの記憶を完全に統合するものまでいた。
所長のナシータは離婚経験があり、理由は自分のワーカーホリックだった。ルチルには愛情を持っているものの、いまひとつ結婚に踏み切れない。それはナシータが、お客の幸せを第一に考えているからであり、自分のことは二の次になりがちだったからである。ナシータはIrisを通じて、ルチルと仕事上の通信は行うものの、プライベートでの通信は控えていた。
そんななか、ひとりのクライアントがやってくる。それはナシータの元パートナーである女性、セシルだった。彼女は記憶を消してモデルチェンジをしており、少年のような姿になっていた。彼女はナシータのことを一切覚えていなかった。セシルは数年前に亡くなったパートナーのメモリを持ち込み、メモリから再現したグラフィックとの結婚を希望していた。
ナシータは彼女に未練はなかったものの、結婚前でナーバスになっていたメンタルが不安定になる。さらに、昔、解除したと思っていたセシルとの感情共有が入り、余計にナシータはざわついた。ルチルはそれを見て嫉妬し、ナシータと共有を深めたいと思う。
ナシータは迷いながらもセシルらの結婚式をすませる。セシルは死んだパートナーと記憶を共有し、精神不安定になりながらも幸せそうだった。
その夜、セシルを見届けたふたりは、Irisを通じた共有を始める。メモリ、感情、五感のすべてを共有した。完全に一体となったとき、ふたりは満ち足りた夜を迎えた。しかし、知り尽くしてしまったという虚無感と、理由のない強烈な寂しさを感じた。それはお互いの動きが100%予想でき、これからどんな感情になるか、何もかもが理解しあえた状態だった。
ふたりは自然な成り行きで、ひとつひとつの共有を切断していき、Irisとの接続も断ち切ってしまった。朝目覚めると、無線は使えず、データは流れてこず、お互いの存在が全くつかめない。ただ視覚で相手の姿を捕らえたとき、なぜか相手をとても愛しく感じた。ふたりはIrisから独立し、お互いを支えあうことを結婚とした。
文字数:1311字
アピール
百合SFを書こうと思いました。正直、もともとあまり百合は好きではなかったのですが、あるインタビューを見て「百合は新しい関係性を定義づけること」と考え、なるほどと思いました。ヒューマノイド同士の百合はベタだったかもしれませんが、書きたいと思いました。(途中から普通の人間ドラマになりそうでしたが……)
最初は取材というより、ただの先行文献の調査でした。ブライダル業界の友人もいるのですが、あまり現実のブライダル事情を聞くとどんどん現実に近づき、SFから離れてしまう気がしたので、取材は悩み中です。
世界設定は『AIの遺電子』を参考にしました。
『アステリズムに花束を 百合SFアンソロジー 』 早川書房, 2019
『ウェディングプランナー 』, 五十嵐貴久, 祥伝社, 2018
『最新ブライダル業界の動向とカラクリがよくわかる本』 粂美奈子, 秀和システム, 2018
文字数:371
代体
再読。今回使えるかどうかはわからない。
使えそうなところ
・というか心は、負傷した生身の肉体から離れ、壁の内部に詰まった転送装置を経由して、代体の脳デバイスに送り込まれつつある。転送が完了すれば、加藤氏の心は代体を新たな乗り物として、日常生活にもどる。その間、主を失った肉体は治療に専念する。
まずもって代体の中枢を担う脳デバイスが保たない。デバイスに詰め込まれた人工ニューロン複合体は、いったん意識が宿って活動をスタートさせると、三十日を過ぎるころから機能が低下しはじめる。 臨床面からも、代体の長期使用は望ましくない。生身の肉体を脱意識状態に長く置きすぎると、意識がもどってきた後のリハビリが大変になるからだ。いかに定期的な電気刺激や栄養管理を徹底しても、筋肉
脳デバイスの各モジュールを構成する人工ニューロン複合体は、宿った意識が覚醒した瞬間から劣化が始まる。三十日間は日常生活に支障のないレベルを保てるが、意識が本体にもどり、ユニットからのエネルギー供給が途絶えると、劣化が加速する。いったん活動を開始した人工ニューロン複合体は、ただ維持するだけでもエネルギーを消費するからだ。脳デバイスの劣化が激しくなれば、たとえユニットにエネルギーが残っていようと、代体は十全に機能しない。だから佐山は、倉庫にあった使用済み代体をチェックするとき、ユニットのエネルギー残量とともに、
ナノスキャン技術の発達により、ヒトの脳の働きがニューロン単位で明らかになったとき、研究者たちの次の課題は、脳の機能をコンピュータ上で完全に再現することだった。すでに当時、コンピュータの演算能力は、ヒトの脳のそれに匹敵していた。脳の仕組みが解明された以上、再現するのも難しくないと思われていたが、実際にやってみると、再現率は百パーセントに遠く及ばなかった。まだなにかが足りなかったのだ。本来、脳はデジタルとアナログの双方によって制御されている。デジタルに比べると、アナログは精度も効率も劣るが、脳と同じ機能を持たせるには、アナログ信号も厳密に再現する必要があるのではないか。その観点から、麻田ユキオは人工ニューロン複合体を開発し、それを用いた数百万もの微小モジュールから成る人工脳を完成させた。それが、現在も世界のスタンダードであり続けているアサダ型脳デバイスだ。アサダ型脳デバイスでは、脳の機能だけではなく、脳という器官そのものが再現されている。
「
代体に転送された意識は、視覚、聴覚、触覚によってのみ、外部情報を得ることになります。しかし生身の脳は、五感のほかにも、肉体からさまざまな影響を受けている。たとえば、各種の臓器から分泌される微量のホルモンによって、性向や感情が大きく左右され、それがまた肉体に作用を及ぼす。双方向のダイナミックなフィードバックこそが、脳と肉体の本来のあり方です。脳デバイスにもそれに近い機能はありますが、ホルモンの影響は受けません。すべてを支配するのは意識であり、意識のありようは脳デバイス内で完結します。この状態に長く置かれると、本人も気づかないうちに、意識が変質していくとされています」 御所が、なるほど、と受け止める。「ガインの意識も同じように変質している可能性が高いというわけですね」「なんといっても七年間ですから。しかも、ガインが脳デバイスの中にいたころは、代体はいうに及ばず、外部と情報のやりとりをする技術も完成していませんでした。完全に隔離された世界は、他者の存在しない世界、他者を認識する必要のない世界です。ガインは、まだ自我が十分に形成されないころから、そんな世界で過ごしたことになる。他者を認識してこなかった者に、他者を支配する欲望が根付くでしょうか。もしかしたら、いまもガインにとっては、本質的な他者、つまり、自分と対等であると認める他者など存在しないのかもしれない」